新古今和歌集の部屋

家長日記 長明との再会

家長日記

其ノ後、思ひがけず對面して侍りしに、それかとも見えぬほどに痩せ衰へて

世をうらめしと思ひ侍らざらましかば、憂き世の闇は晴るけず侍りなまし。これぞ眞の朝恩にて侍るかな。

と申して、苔の袂もよゝとしほれ侍りし。

憂き世を思ひ捨てず、少しのほだしにもこれが侍り。

とて、歌の返し書きたりし琵琶の撥を、經袋より取り出でゝ、

これはいかにも、苔の下まで同じ所に朽ち果てむずるなり

とぞ申し侍りし。なほ心にいれたりしことを思ひ捨てがたき事にして、いさゝか妨げともなるまでおぼゆらむいとほしさよ。

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