姫、なんか言ってます。
道沿いに花桃が植えてあって、
ジョウビタキ姫は
うちのまわりの
花桃の木々を行ったり来たりしている。
わたしが近づくと
姫は隣の木に移動して、
わたしがそっちへまた近づくと
姫はさらに隣の木に移動する。
わたしを飛び越して
もといた木に戻ったりもする。
遠くに飛び去ればそれまでなのに、
隣の木に移動するだけだから
ついつい、
ずっとついて行ってしまう。
なんでついてくるの。
好き、だから?
彼女の朝の水浴びは
毎朝、誰より早いのツグミのあと。
噴水みたい。
2階から見ると
その姿は相変わらず十二単です。
水のなかでぱしゃぱしゃしている間も
こっちを見ていたりして。
かわいいです。
午後、
ツリーハウスのそばの草むらで
かなり長くしゃがみ込んで
ホシノヒトミを見ていて
立ち上がって振り向くと、
夏にマンデビラを絡ませていた
錆びた脚立のてっぺんで
姫が見つめていた。
...…なにしてるの?
あ、ちょっと怪しかった?
無言で目を反らして、
ふるふるっと体を震わせたと思ったら
あっという間にジョビボール。
横顔のその表情に、
その眼差しに、
はっとした。
遠い眼差し。
鳥は目がいいから
ずーっと遠くを見ているから
人から見ると、
「遠い眼差し」に見えるんだと思う。
単にそういうことなんだろうと思うけれど
意味ありげに見えてしまう
姫の、遠い眼差し。
…ねぇ、どこ見てるの?
春だよ。
もう少ししたら
行っちゃうんでしょ?
淋しくなるよ。
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