ザウルスの法則

真実は、受け容れられる者にはすがすがしい。
しかし、受け容れられない者には不快である。
ザウルスの法則

「白いウソ-- 牛乳の真実」 原題“White Lies” 1

2014-03-02 08:46:53 | 牛乳有害論

「白いウソー牛乳の真実」  原題“White Lies” 1

牛乳消費による健康上の影響についての科学的報告

ジャスティン・バトラー医学博士

序章

私たちが消費する食べ物は、私たちの健康と福祉に計り知れない重要性があります。食と健康問題についてのテレビやメディア報道の最近の増加によって、私たちは食事と健康の間に存在するつながりについての理解を深めています。私たちが食べる食べ物の種類は私たちの文化に強く結びついており、食の問題は感情的な反応を引き起こすことがあります。英国およびその他北ヨーロッパ諸国、そして北アメリカにおいて、私たちは、牛乳は大人にとってさえも、自然で健康的な飲み物であるという考えに強い情緒的愛着を育んできました。

 

牛乳は私たち人間が最初に口にする食べ物です。私たちが幸運であれば、自分の母親の母乳ですが、幸運でないならば、英国では一般的に牛のミルクもしくは豆乳から特別に作られた代用品ということになります。私たちは牛乳に対して安らぎと育みというイメージを抱いており、赤ちゃんの正常な成長と発達に欠かせない食べ物のうち、バランスがとれていて栄養豊富なものとみなしています。

 

しかし、地球上の人間以外のすべての哺乳類は早い時期に乳離れをします。一方一部の人間は大人になっても牛乳を飲み続けます。しかもそのミルクは他の動物種のものです。こういう例は他の哺乳類にはありません。公平に見て、一般の観念とは裏腹に、世界のほとんどの人間はミルクを飲みません。人類の多くはミルクを飲むと具合が悪くなります。しかし英国では、私たちは牛乳を飲む国民ですが、これはほとんどの北欧諸国と北米と同じです。乳児、幼児、青年、大人、そして高齢者までの全世代が大量の牛乳、チーズ、バター、ヨーグルトを毎年消費しています。しかし、なぜ私たちは牛乳が一種の魔法の食べ物であると確信しているのでしょうか。

 

ミルクによって減量できると言われます。しかし、ミルクで太ることもあります。ミルクで健康的な肌になると言われます。しかしまたニキビの原因にもなります。骨の健康のためにはミルクが必要と言われます。しかし、骨粗しょう症の発症率はミルクを多く消費する国で最も高いです。こうした相反する報告によって私たちは混乱するばかりで、誰の言葉を信じたらいいのかわかりません。乳業界は牛乳の宣伝と販売促進のために莫大な予算をつぎ込んでいます。乳業界は経済的利益を動機としたバイアスのかかった視点を提示している可能性があります。牛乳は、乳業界が私たちに信じ込ませようとしているような魔法の食べ物などではないことを示す科学的な証拠が現在山のように積み上がってきています。この報告書における考察は牛乳の消費を広範な健康上の問題に結びつけることに留まりません。この報告書に述べられている健康に対する乳製品の有害な影響について客観的であることはむずかしいと多くの人々は感じるかもしれません。健康問題の専門家ですらそう感じるでしょう。なぜならば、牛乳は自然で健康的であるというイメージに対して私たちの多くは情緒的な愛着を抱いているからです。

 

この報告書の目的は、牛乳と乳製品が健康に及ぼす影響についての研究を提示・点検することによって、牛乳についての見方の不均衡を是正することにあります。

 

健康的な食事とは?

健康的な食事には、広範な種類の、新鮮な果物や野菜、全粒穀物、豆類、ナッツ、種子が含まれます。そういった食事は病気を撲滅する抗酸化物質が豊富で、ある種のがんや心臓疾患を含む数多くの病気を防ぎます (Genkinger et al.,2004; Joshipura et al., 2001;Liu et al., 2000)。果物や野菜の豊富な植物性の食事を摂取する人々のあいだで慢性疾患の発生率が低いことの理由の一つは血液中の高濃度の抗酸化物質であるかもしれないという指摘がされています(Waldman et al., 2005)。健康的な食事は、大腸癌を含む一連の病気を防ぐ豊富な繊維を提供します。また、ビタミンやミネラルが豊富で、これもまた健康を守ります。健康的な食事は、心臓の健康を守ることが知られているオメガ 3脂肪酸を含む必須多価不飽和脂肪酸の良い供給源を含んでいる必要があります。

 

その一方で、健康的な食事は、飽和脂肪、動物性タンパク質、コレステロールの含有が低くなければなりませんが、これらはわたしたちの身体には不要だからです。確かに政府は現在、脂肪の総量を削減するよりは、飽和脂肪を不飽和脂肪に置き換えることが重要だという助言をしています

(FSA,2005)。これの意味することは、アボカド、ナッツ、種子、植物性オイル(亜麻の種子油など)や植物性のスプレッド(大豆スプレッドなど)をもっと摂取することを意味します。

 

牛乳、チーズ、バター、クリーム、アイスクリーム、ミルクチョコレート ・・・これらすべてに健康に良くない飽和脂肪が含まれており、これは心臓病のリスクを増加させるものです。これらの食品のいくつかはかなりの量の飽和脂肪を含んでいます。たとえば、チェダー チーズは約35%の脂肪を含んでいますが、そのうち 60%以上が飽和脂肪です。同様に、バターは80%以上の脂肪を含んでいますが、そのうち60%以上が飽和脂肪です (FSA,2002)。これはバター 10グラムを料理で使う場合、その中には 5グラム以上の飽和脂肪が含まれていることを意味します(FSA,2005)!食品基準局(FSA)は、飽和脂肪は100グラム中5グラムでも「多い」と言っています(FSA,2005)。とすると、バターの場合、たった10グラム中に飽和脂肪分が5グラムもあるということは、バターは著しく不健康な食品であることになります。植物性の多価不飽和脂肪スプレッドは総脂肪量が少なく(約 60%)、飽和脂肪分も20%未満です。植物性のスプレッドは貴重な多価不飽和脂肪酸をより多く含む傾向があり、その点はるかに健康的な選択肢となるでしょう。

 

全乳、クリーム、バターのような動物性食品由来の飽和脂肪は血液中のコレステロール量を増やし、ひいては心臓病や糖尿病のリスクを増加させます。植物性の食事の含む飽和脂肪はかなり低いことが調査で明らかになっています。が含まれていることを示しています。EPICオックスフォード研究は、肉を食べる33,883人、魚を食べる10,110人、菜食主義者(乳・卵許容)18,840人、ビーガン(完全菜食)2,596人を対象とした大規模な調査研究です。この研究によると、摂取される脂肪の総量は、肉を食べる人が最高で、ビーガンは最低でしたが、両グループ間の差は比較的小さいことを示しています。しかし、飽和脂肪から得られるエネルギーの比率は4つの食事グループ間で著しく異なります。: 飽和脂肪の摂取量は肉食グループが最高で、魚食グループ、菜食グループもほぼ同じでした。そして飽和脂肪の摂取量が大幅に低かったのはビーガングループでした(Davey et al. 2003)。

 

植物性の食事の飽和脂肪量が低いことは非常に顕著であり、減量にも応用され、カロリー計算で頭を悩ますこともありません。ある臨床的な実験において、低脂肪のビーガン食事療法は、食事の量やエネルギー摂取量についての規定制限を課さなかったにもかかわらず体重減に役立ったことが示されました(Barnard et al., 2005)。菜食主義者とビーガンは肉食の人より太り過ぎや肥満になるリスクが低いことを裏付ける他の研究は、より多くの野菜とより少ない動物性食品を摂取することは体重のコントロールに役立つ可能性があることを明らかにしている(Newby et al., 2005)。太り過ぎや肥満は、2型糖尿病、心臓病、喘息、不妊症、高血圧や多数の癌を含む多くの健康問題のリスクを高めます。

 

牛乳や乳製品にはホルモンと成長因子をはじめとする多くの生物活性分子が含まれます。牛乳には、35種類を超えるさまざまなホルモンと11種類の成長因子が含まれることが明らかになっています(Grosvenor et al. 1992)。一部の研究者は特に牛乳のエストロゲン(女性ホルモン)の成分について憂慮しています(Ganmaa and Sato, 2005)。牛乳は、人間がエストロゲンにさらされる重大なルートの一つであると指摘しています。今日消費されている牛乳は100年前に消費されていた牛乳とは非常に異なります。

 

昔の牧草地飼育の乳牛たちとは違って、現代の乳牛たちは通常妊娠していて、妊娠の後半期にもミルクを出し続けますが、この期間の血液、そしてミルクの中のエストロゲンの濃度は上昇します。

 

この分野における研究はまだ十分ではありませんが、初期の証拠は牛のエストロゲンへの露出の増加は、特定の癌の発生率の増加につながる可能性があると示唆しています。ある研究によれば、癌の発生率は40カ国における食物摂取と相関を示しました。研究結果によって明らかになりましたが、牛乳とチーズのどちらも乳がんや卵巣がんといったホルモン依存性がんのリスクを増加させます。食品における突き止められたリスク因子のうちで、この研究者たちは牛乳と乳製品についていちばん憂慮しています。

 

牛乳の持つ生物学的成分のうち、最近とみに注目を集めているものは、インスリン様成長因子1 (IGF-1)と呼ばれる成長因子です。牛のミルクに存在する IGF-1 の含有量は妊娠牛において高くなります。憂慮というのは、牛の IGF-1 が人間の IGF-1 と同一であること、そしてこの成長因子が人間の腸壁を越えて異常な反応を誘発する可能性があること、たとえば特定のがんのリスクを増加させる可能性があることです。確かに、過去10年間この IGF-1 は小児がん、乳がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、前立腺がん(LeRoith et al., 1995)と、胃腸がん(Epstein, 1996)の発生リスクの増加に結びつけられています。

興味深いことに、ある調査の観察によると、非脂肪牛乳の摂取を増加した被験者で、IGF-1の血清中レベルで10%の増加が認められました(Heaney, 1999)。一方別の同様の研究によると、ビーガンの男性群のIGF-1の血清中レベルが肉食者群および菜食主義者群を9%下回っていました(Allen et al., 2000)。

 

牛乳と乳製品の摂取が IGF-1 のレベルを上げるのが直接的であろうと(腸壁を越えて)、間接的であろうと(体内のIGF-1の生産増加を誘発することによって)、証拠が示唆することは、牛乳のなんらかの成分がIGF-1の血清中レベルの上昇を引き起こしているという点です。IGF-1はある種のがんの予測因子として使えるかもしれないとまで示唆されています。ちょうどコレステロールが心臓病の予測因子として使用されているのと同じように (Campbell and Campbell, 2005)。

 

要約: 飽和脂肪、コレステロール、動物性タンパク質、ホルモン、成長因子を含む食事は健康的な食事ではありません。牛乳、バター、チーズ、クリーム、アイスクリームなどの乳製品はすべて上記の不健康な成分を含んでいます。いっぽう実質的な証拠によって、果物や野菜、全粒穀物と不飽和脂肪(オメガ3脂肪酸を含む)が豊富な植物性の食事は重要な健康上の恩恵を提供することが示されています。

 

定期的な運動と併せて健康的な食事を採り入れ、喫煙を避けること、これによって、いわゆる現代の欧米型の病気の多くを予防できます。食事、身体活動、健康に関するグローバル戦略の一環として、世界保健機関(WHO)は、冠状動脈性心臓病の症例の80% 、2型糖尿病の場合の90%、そして、がんの3分の1はより健康的な食事への変更、身体活動の増加、そして喫煙の停止によって回避できると主張しました(WHO、2006 c)。

 

  

第一部: 牛乳の歴史、地理、生物学

酪農業の起源

羊、牛、ヤギは、9千年前に中東と中央アジアの一部で家畜化されたと考えられていますが、これらの動物がミルクを供給するために使用されたという直接の証拠はありません。約6千年前あたりから最初期の酪農が始まったという確固たる証拠が、その時代に書かれた文や絵から得られます。土器の底に残留していた乳脂肪の安定同位体の証拠は、ミルクのための動物の利用が紀元前5千年のイギリスにおいてすでに確立された風習となっていたことを示唆しています(Copley et al., 2003)。これは長い歴史のように思えますが、進化論的に見るとごく最近のことで、初期の酪農は比較的小規模なものであったことでしょう。原人(現生人類とその祖先)の化石は700万年近く前までさかのぼります(Cela-Conde and Ayala, 2003)。700万年を12時間表示の壁時計で表し、正午がスタートだとすると、人間が酪農を始めるのは真夜中の37秒前のことになります。

 

さらに、銘記すべき重要な点として、世界の人々のおよそ70%は牛乳をたとえ消化したいと思っても消化しません。世界の大多数の人々は乳糖不耐のために牛乳を飲むと具合が悪くなるのです。(乳糖不耐 ページ 52 を参照)。

 

今日の酪農

今日の牛乳生産はビッグビジネスです。現在、英国では220万頭の牛が 2万2千の酪農施設で飼育されています。イギリスのミルクの生産の総価値は 推定27億ポンドです。これは、牛肉、ラム、ブタ、家禽肉の生産を上回ります。そして新鮮な野菜の生産の価値の3倍の値に相当します(Defra,2005)。仔牛が吸うミルクを除いて、現在各牛は1日当たり20リットルを生産しますが、これは1頭が約7千リットルの牛乳を毎年生産するのに相当します(Defra,2005)。選択的な交配繁殖と高タンパク飼料によって、牛の2,3世代のあいだに1頭あたりの平均生産量が9リットルから22リットに増加しています。

 

よくある誤解は、雌牛がミルクを絶え間なく生産するのは自然なことだという観念です。これは正しくありません。私たち人間の女性と同じように、雌牛がそのミルクを出すのは本来数カ月の妊娠期間を経ての出産のあとだけです。しかし、今日の大規模で集中的な酪農業は、ミルク分泌を最大限にする目的で、雌牛たちが一年の大半を妊娠している(つまり、まだ仔牛が生まれていない)段階から搾乳できるような高度に調整されたシステムを採用しています。こうした集中的で生物学的にイレギュラーな要求は乳牛たちに途方もないストレスを与えます。そして雌牛たちは歳をとるにつれ、不妊症、重篤な感染症を引き起こす乳腺炎、歩行困難によってその経済的・生産的生命に終止符を打たれます(The Dairy Council, 2002)。現代の乳牛の平均寿命はわずか5年です。3年から4年の牛乳生産で酷使された後に用済みとなります。本来、牛は20年から30年は生きる動物です。

 

誰がミルクを飲むのか?

1960 年以来、牛乳の生産は世界的にほぼ倍増しています(Speedy, 2003)。世界の人口の約4分の3は牛乳を飲みません。しかし、牛乳を飲む世界の人々のあいだであってもその消費のパターンは国によって大きく異なります。2002年に国連食糧農業機関 (UNFAO) によって集計されたデータは170を超える国々における年間のキログラム当たりの牛乳の消費量(バターを除く)の数値を提供しています(FAOSTATS, 2002)。

 

 

 

 

図 1.0 で示されるように、牛乳消費のレベルは国によって大きく異なり、同じ大陸の隣接する国同士でも異なります。たとえば、ポルトガルでは一人当たり年間の牛乳の消費量は 219.7 kgですが、お隣のスペインでは一人当たり年間わずか 158.3 kg でかなり低いです。牛乳消費大国はやはりヨーロッパで見られます。たとえば、スウェーデンではなんと一人当たり年間 369.4 kg の大台に載ります。その次にせまっているフィンランドでは一人当たり 350.6 キロです。牛乳消費大国として以下にオランダ (345.7 kg)、 スイス (332.4 kg)、 アルバニア (298.8 kg)、 オーストリア (293.3 kg)、 アイルランド (279.5 kg)、 フランス(275.5 kg)、 ノルウェー (275.1 kg) が並びます。米国は261.8 kg、そしてイギリスでは 230.9 kg です。いっぽう世界全体での牛乳の一人当たりの年間平均消費量はわずか 79 kg です。 

牛乳消費の最少の国々はアフリカとアジアに見られます。コンゴ民主共和国ではたった一人当たり年間 1.6 kg が消費されます。ミルク消費の少ない他の国々にはリベリア (1.8 kg)、民主主義人民韓国共和国 (3.9 キロ)、モザンビーク (4.5 kg)、ベトナム (5 kg)、中国 (13.3 kg)、タイ (18.8 kg) が並びます。牛乳消費のこの少なさからすると、これらの国々および他の国々の多くの人々は牛乳や乳製品をまったく消費しないと推定するのが理にかなっています。

 

発展途上国で見られる牛乳消費の少なさは、単に牛乳を買う余裕がないという事実を反映しているだけだという指摘があるかもしれません。しかし、たとえば日本(発展途上国ではない)は、牛乳の消費量はわずか 67.1 kgで非常に少ないです。実際、世界のほとんどの人々は牛乳を飲んでいないのです。その理由は文化的、経済的、歴史的、または生物学的なものです。たとえば、世界の人々のほとんどは乳糖不耐です(乳糖不耐ページ 52 を参照)。しかし、私たち英国人の多数は牛乳を健康的な食事の基本的な要素として考えています。これはなぜでしょうか?ミルクは或る曖昧な必須の栄養素の唯一の供給源なのでしょうか?または牛乳は、私たち人間に必要なすべての栄養素を含むという点でユニークなものなのでしょうか?

 

人間のミルクと牛のミルクの比較

ミルクの成分構成は動物種によってそれぞれ異なり、当の動物種の赤ちゃんにとっての正確な成長率と発達速度を提供するものです。ですから、人間の乳児にとっては牛のミルクより人間のミルクのほうがより適していることは明らかです。医療専門家の間でも意見が一致しているのは、通常の牛乳、ヤギのミルク、コンデンスミルク、エバミルク、その他どんなタイプのミルクも1歳未満の乳児に与えてはならないという点です。これは、過去数十年にわたる研究によって明らかになってきたミルクの成分構成の相違のためです。牛のミルクと人間のミルクの水分の比率はたまたま似通っていますが、炭水化物、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルの相対的な量は大幅に異なります。

 

 

タンパク質

1つの動物種が分泌するミルクの炭水化物、タンパク質、脂肪の成分はその当の動物にとっての栄養学的な要件に応えるように細かく調整されています。人間であれ、象であれ、バッファローであれ、ラクダであれ、犬であれ、みな微妙に違うのです。図 2.0 を見ると、牛の全乳100グラム中のタンパク質の量(3.3 g)は、同じ100グラムの人間のミルク中のタンパク質 (1.3 g) の2倍以上を示しています。これはミルクの中のタンパク質の量がその当の動物種の仔の体が成長していくのにかかる時間と結びついているためにです。成長する仔牛は捕食動物の餌食になるよりも早く成長しなければならないために、より多くのタンパク質を必要とします。いっぽう人間の場合、乳児の必要とするタンパク質はより少なくて済み、かわりにより多くの脂肪を必要とします。これは乳児のエネルギーが、主に脳と脊髄と神経の発達のために消費されるためです。 

ミルク中のタンパク質は 2つのカテゴリに分類できます: カゼインタンパク質と乳清タンパク質です。人間のミルク、母乳ではこの2つが 40: 60 の比率で含まれています。いっぽう牛のミルク、牛乳でのカゼインと乳清の比率は 80:20 です。そもそも牛乳の含有するタンパク質の総量は、人間の母乳の含有するタンパク質の総量の2倍以上ですから、牛乳は母乳よりもかなり多くのカゼインを含んでいることは明白です。ところが、カゼインは消化しにくく、実際これはいくつかの接着剤の基剤として使用されています!乳児用ミルクはカゼインよりも乳清のほうを多めに調整されています(粉ミルク中のカゼインと乳清の比率は母乳に近くしてあります)。だからこそ、新生児が消化するのに楽なようになっていると思われています。カゼインは1型糖尿病をはじめとする一連の病気とアレルギーに結びつけられています。 

 

脂肪

ミルク中の脂肪の量もまた、そのミルクを分泌する動物種の栄養学的要件を反映しています。牛の分泌する全乳は約4パーセントの脂肪を含有していますが、灰色アザラシの分泌するミルクは50パーセントの脂肪を含有しています(Baker, 1990)。これはアザラシの赤ちゃんが冷たい水の中で生存するためにより多くの体脂肪を必要とするためです。図2.0 の示すところによれば、100グラムの牛の全乳と同量の人間の母乳は同じくらいの脂肪を含有しています(牛3.9g と 人 4.1g)。この数値は近いですが、脂肪のタイプは異なります。図3.0 の示すところによれば、牛乳は飽和脂肪を多くんでいますが、人間の母乳は不飽和脂肪をより多く含んでいます。図3.0 の示すところによれば、100グラムの人間の母乳には、2.5グラムの飽和脂肪、1.0 グラムの一価不飽和、0.1 g の多価不飽和脂肪、人間のミルクに 1.8 グラム飽和脂肪には、1.6 g 一価不飽和脂肪には 0.5 g 多価不飽和脂肪が含まれます(FSA, 2002)。これらの数字によって、人間の母乳と比べると、牛乳にはより高いレベルの飽和脂肪が含まれていることが証明されます。この不均衡は牛乳が人間の乳児には適さないことの論拠の一つとなっています。

 

 

人間の母乳中の不飽和脂肪酸の高いレベルは、これらの脂肪が脳の発達にとって重要な役割を果たしていることを反映しています。人間の場合、新生児の最初の1年のあいだに脳は急速に発達し、体よりも速く成長し、1歳の誕生日を迎える頃には3倍の大きさになります。脳は主に脂肪からできていますが、人間における初期の脳の発達と働きには多価不飽和必須脂肪酸の十分な供給が必要です。オメガ6脂肪酸のアラキドン酸 (AA) とオメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸 (DHA) は、どちらも脳の発達と働きに欠かせません。この両者は人間の母乳によって供給されますが、牛乳によっては供給されません。(現在 AA と DHA を強化した乳児用調製粉ミルクがヨーロッパ中に出回っていますが、必須のものではありません)。

 

母乳授乳の乳児と粉ミルク哺乳の乳児の認知機能についての20の比較研究を総合点検した結果、母乳の含む栄養素が乳児の神経系の発達に顕著な影響を与える可能性があるという結論が得られました(Anderson et al., 1999)。人間の脳の発達に不可欠なタイプの脂肪が、牛乳では少ない傾向があります。牛にあっては、脳の速い発達よりも、体の速い発達のほうにより緊急性があります。だからこそ、雌牛は仔牛が速く大きくなるように、体を作るのに役立つ飽和脂肪の多いミルクを分泌するのです。

 

同様に、牛乳の脂肪酸組成は人間よりも仔牛に適しています。牛乳の脂肪酸組成に変更を加えて人間にとって必要な栄養価を高めようとする試みから、雌牛に飼料として魚と大豆(AbuGhazaleh et al., 2004)や亜麻の種子(Petit, 2002)を与える実験がなされました。亜麻の種子を雌牛に食べさせる実験の結果、分泌するミルクのオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率が低くなりました。これは人間の健康の観点からすれば、病気になる潜在的リスクを下げることによって牛乳の栄養価が向上するように思われるかもしれません。もちろん、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率を改善するためなら、最初から人間が食事を通して亜麻種子オイルを摂取すれば、牛乳の含む好ましくない成分を避けることもできることでしょう。

 「牛乳の真実」  原題“White Liies” 2  に続く

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