あれは、私が19歳の頃だったか。
私は、とある事件を追い、
その事件が載っている新聞を
片っ端から買って読んでいた。
大スポだったか何だったか失念して
しまったが、風俗店レポートが
載っており、それもついでに読んでいた。
『あーだった、こーだった、えへへ』という
レポートの後に、記事で紹介された女性の、
簡易プロフィールが載っていた。
内容は、身長やスリーサイズ、
そして何故か「将来の夢」。
とある人は、「パティシエ」と書かれていて、
私なんて夢という夢がないのに、
夢があっていいなぁなんて思ったものだ。
中でも、
忘れられない将来の夢はコレだ。
「お嫁さん」
これを見た瞬間、不覚にも涙が出た。
彼女が、どういった経緯で風俗店に
勤務することになったかは分からない。
自ら望んだのかもしれない。
親の借金のカタかもしれない。
自分が能力以上の借金をしたのかもしれない。
私は、同じような年齢の女性が、
どこの馬の骨かも分からない人と
触れ合わなければならない身の上に、
思いを馳せた。
彼女は、もしかしたら、
お客さんの気を引くよう
「お嫁さん」と書いたのかもしれない。
いや、適当に書いたのかもしれない。
でも、私が訝しがらずに泣いたと言うことは、
彼女が本当に「いつか結婚したい」と
思った気持ちを受け取ったからだと思う。
感情は、エネルギーを持っているからね。
それに、普段思っていないことは
書けないものだ。
あの時の彼女、
今はどうしているのだろう。
