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欲望は ある日突然消える
年をとるのは 未知の体験の連続である
食欲が失せ 性欲は消え去り 睡眠はあるがままになる
人により異なるのは当然であるが
欲望や 所謂煩悩などは 本人の意思と無関係に
活火山がある時点で死火山になってしまうように
気がつくと マグマが冷え切って固まっている
溶岩となって固まった欲望は もはや衝動のエネルギー源にはならず
欲望の化石を見て 昔の感情や衝動を思い出すのみ
欲望は もはや自分を動かす事は出来ない
衝動は懐かしく思い出す 記憶のかたまりになってしまった
自分の原風景を まるで他者が見るように 眺める
おいしいものは おいしいままである
だが ご飯と 漬物と 味噌汁が 飽きなくなる
旨いものは十分味わった
今たまに食いたいのは トンカツと新鮮な刺身 かな
工夫を凝らしたものは 旨い
でも たまにでいい 普段はいらない
魅力的な女性に魅かれるのも
性欲のなせる技だ
無くなれば 女性は女に属する人にしか過ぎない
花を見るように 人形を見るように 女を見る
美しかろうと 自分にとってあまり意味は無い
さまざまな花が持つ 単なる花の個性の一つである
人を結ぶのは 性別年齢に関わらず 相性であった
当たり前の事に 愕然とする
欲望が失せると
自分が失せるような気持ちになった
欲望を失って 欲望の大事さを知る
だが
欲望に振り回される日々は もう遠い
無くしてしまった 欲望という衝動が欲しい時もある
欲望と不満が 社会の進化の為に必要である事がわかる
進化も 欲も 不満も失った自分には
世間様が ただの 景色になって行く
自分にとってこの世界はすべてが景色
リアルとの接点を探る
だが接点を探ることさへ エネルギーを消耗するようになった
現在が決して満足すべき状態ではない にもかかわらず
現状が 死ぬまで このまま固定され 変化しない事を望むようになってきた
何も足さない 何も引かない 昔のCMにあったコピーを思い出す
一年が一日の如く過ぎ行く
昔は それを 退屈 無為の日々とみなしていた
昔の自分の感情は 自分であるので理解は出来る
だが 昔の自分は 今ここにいない
今あるのは 今の自分だ
当たり前の事に 納得する自分がいる
これが 年をとるという事なんだな