スミス・マルクス・ケインズ よみがえる危機の処方箋
ウルリケ・ヘルマン著 みすず書房
第9章今日の主流派 ― 資本主義を取り除いても解決にならない
第2次世界大戦後、「一般理論」が書かれた恐慌期とは似ても似つかぬ経済成長期が到来した。1950年~1973年、西ヨーロッパでは年平均4.1% 1人当りの所得が向上した。ドイツは年5%、日本は年平均8.1% 所得が向上した。ドイツ産業界のロビーリスト ルートヴッヒ・エアハルトは、ドイツ「経済の奇跡」の立役者である。1949年から14年間ドイツ財務大臣、その後3年間ドイツ連邦首相を歴任し「経済の奇跡」を実現した。しかし、その背景は膨大な戦争被害の修復という平凡な理由があった。
米国は、ドルを世界の基軸通貨として固定し、1944年金本位制のブレトン・ウッズ通貨体制を構築したが、金価格の暴騰危機を経て、1971年ニクソン大統領は金とドルとの兌換を破棄し、ブレトン・ウッズ通貨体制を過去のものとした。しかし、「ニクソンショック」を引き起こす事になった。金本位制不要については、ケインズが主張した国際通貨システムでは、各国の中央銀行の共同作業で対応できるものであったが、先進諸国は不況に直面した。1973年石油危機により西ドイツは100万人の失業者に溢れ、米国・英国とも更なる経済危機に陥る。
1976年ノーベル賞を受賞したミルトン・フリードマンの政策提言・実践へのアイデアは、この時期に多くの国で採用された。米国レーガン政権や英国サッチャー政権もフリードマンの信奉者であった。フリードマンは、通貨供給を通じたインフレーションの制御に焦点を当てたモノタリズムと呼ばれる理論を提唱し、量的金融緩和のアイデアを提示し、中央銀行が通貨供給を調整することで景気循環を安定化できると主張した。現代経済学でも、フリードマンは今日でも経済政策議論や研究の対象となっている。
一方、投機手段としていたデリバティブの存在解決がなされない現実があった。ヘルマン氏は金融ジャーナリストのマイケル・ルイスの次のようなコメントを記載している。 -「デリバティブに相当するものなどカジノの世界に存在しない。本物のカジノならこのリスクはあまりに大きすぎると計算するだろう」ー
デリバティブの取引だけではなく株・不動産についでも途方もない増価が生まれる。間違った理論は高くつく。金融危機は何百兆もの損失を生み出す。
2008年リーマンショックという世界金融破綻が生み出された。主流派経済学者はこのことを説明出来ない。各国はケインズに依拠して巨額の赤字財政支出が行われ、1929年と同様の持続的恐慌からは回避できた。ベン・バーナンキ(米国連邦準備制度(FRB)議長)は、金融危機や世界的な景気後退の際に、銀行を救済するための対策を講じ、大規模な金融緩和政策を実施して、景気の安定化を図った。
しかし、誰もシステム中枢部デリバティプにメスを入れていない。「危機の後は、危機の前」なのである。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます