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「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」 ナンシー・フレイザー著、ちくま新書

2024-03-04 12:18:47 | 日記

「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」 ナンシー・フレイザー著、ちくま新書

第1章 雑食 ― なぜ資本主義の概念を拡張する必要があるのか

 

著者のフレーザー氏は、現在の資本主義の復活は、歓迎すべき展開であると述べている。そして、マルクスによる資本主義を想定する特徴については、以下の4つの特徴を指摘している。

第1の特徴 生産手段の私有化

第2の特徴 労働市場という制度と自由賃金の利用 

第3の特徴 資本自体の際限のない自己増殖

第4の特徴 資本主義社会の市場への特有の役割

    その1 資本主義の市場は、生産に対する主な投入物(インプット)を再分する機能を持つ

    その2 社会的余剰の投資方法は市場が決める

 これらの観点から、資本主義は半プロレタリア化した世帯を基盤にしている点を、フレーザー氏は強調している。しかし、その背景として、マルクスは搾取から収奪という認識転換が持つ意味を明らかにしていないことを付け加えている。 

 重要な認識的転換の第一は、生産から社会的再生産への移行であり、現在の資本主義のかたちは、公的支援の削減を要求するとともに、多くの女性を低賃金サービス労働に誘致し、商品生産と社会的再生産とを分離して制度的境界の地図を描き換え、ジェンダー秩序を作り変えている点を、フレイザー氏は指摘する。 

 そして、エコノミーからエコロジーへ。資本主義は人新生と呼ばれる時代を開始している。人間活動が地球を食い尽くそうとしている。新自由主義は環境主義を市場としているのである。 

 経済的なものから政治的なものへ、世界システムとして編成されるグローバル化の進む資本主義経済と、国際的システムとして編成される領域国家の政治世界との分裂の問題がある。

 搾取から収奪へ。資本は有毒廃棄物処分の場として、低賃金ケア労働の供給源として、人種差別の対象となる領域に依存している。経済的、生態学的、社 会的、政治的危機は、帝国主義や人種差別的抑圧と絡んでいる。 

 資本主義は経済より大きい何者かである。それは資本主義を経済よりも、もっと大きなシステムとして概念化する事を意味する。資本主義において決定的なことは、経済と政治を制度的に切り離したことである。この分離を前提に、資本主義を制度化された社会秩序として語る事は、資本主義の人種的抑圧、ジェンダー支配、自然環境の破壊、政治支配の非偶然的構造的な重なりを示す。

 重商資本主義、植民地資本主義、国家管理型独占資本主義、新自由主義資本主義、この4つの体制が資本主義を構成する領域の境界線を構成する領域の境界線を引いて来た。資本主義を制度化された視界秩序として捉えれば、資本主義批判が可能か解りやすくなる。このことは、社会、政体、自然、周辺を資本主義の外部のものとして捉えることは間違えである事を意味する。 

 フレーザー氏は、この章で資本主義の全景と背景との関係の説明には3つの明確な考えが組み合わさっていることを上げ、更に、4つ目の考え方である飽くなき共食いへの危機が存在することで結んでいる。

  ①資本主義の非経済的領域は、資本主義の背景条件である。

  ②資本主義の非経済的領域は、重要性と特徴を持ち反資本主義闘争に資 源を提供し得る。

  ③資本主義社会の本質的な部分は、歴史的に経済と協力し合って資本主義の構成要素となり、

   経済と共生関係にある特徴を持つ。

  ④資本主義の前提と背景との関係は、社会を不安定にする原因を組み込んでいるのである。

    

    

  

 

 



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