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2015-02-21 07:00:00 | スポーツ

記憶は思考の邪魔になる 「覚えない頭」の作り方
2014年2月21日 7:00 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82540460Z20C15A1000000/


 知識や情報は多ければ多いほどいい場面がある半面、思考や発想を邪魔することも少なくない。余計な情報は、「あえて覚えない」頭を作るための習慣を身につけよう。


■「覚えのない」ことのメリット:記憶が考える力を弱める


 「知識や情報が豊富にあるほど、仕事に役立つことは多いと思われます。しかし現実には、多すぎる知識は、思考や発想を邪魔することも珍しくなりません。実際、私のいる研究の世界でも『知識量は豊富だけど発想力に乏しい』という人は多い。むしろ最近は、知識量が決して多くない研究者が、画期的なアイデアを提案するケースが目立ちます。


 こう語るのは、慶応義塾大学教授の前野隆司さんだ。知識や情報が多すぎる弊害は、「つい、”答え合わせ”をしてしまうことだ」だと前野さんは指摘する。知識に頼りすぎると、脳が勝手に過去の記憶から正解に近いものを探すようになり、考えようとしなくなるのだという。それが積み重なると、思考力・発想力が弱まっていくのだ。


 「ビジネスの世界では、これまでの常識や”必勝パターン”が通用しなくなってきています。知識はしょせん『過去の情報』に過ぎません。これからの時代に求められるのは、前例にとらわれないアイデアを考えること。それは、知識に頼ってばかりいたらできません。思考力や発想力を高めるにはあえて『覚えない』ことが重要です」(前野さん)


■「覚えてない=悪」ではない


 とはいえ私たちの多くは、学校で「覚えましたか?」「試験に出ますよ」という言葉に代表される、”暗記至上主義”教育を受けてきた。「覚えないこと」に、抵抗を感じる人も少なくない。


 「仕事はペーパーテストではありません。必要な知識や情報は、記憶しておかなくても大丈夫です。インターネットの検索機能を利用すれば、大抵のことは調べがつきます。そして、世の中にある多くの仕事は、誰かと一緒にやるものです。職場には大抵、膨大な量の知識を覚えている人がいます。分からないことがあったら、彼らに聞いてもいい。日ごろから周囲の人の得意分野などをメモしておくといいでしょう」(前野さん)


 必要に応じて、道具の周囲の人の助けを上手に活用する。そうして浮いたエネルギーや時間を、「自分の頭で考える力」を身につけるのに使うことが大切だ。


■「覚えない」ためのノウハウ:情報は「徹底的に外に出す」


 知識や情報を増やしすぎないためには、覚えずに”外に出す”ことが重要。それを簡単に実行する方法として前野さんが勧めるのが、以下の3つだ。


 1つ目は「書く」。紙と筆記具さえあればできる。一番手軽な方法だ。学生時代は歴史の年号や英単語を、書きながら暗記していた人も多いだろう。しかしここでは、「覚えないために」書く。


 「『忘れたらノートを見ればいい』と思うことを習慣にするのが狙いです。淡々と記録を続け、書いた項目が増えていくにつれ、『忘れても大丈夫』という安心感が生まれます。そして少しずつ、『覚えない』ようになっていくのです」(前野さん)。これは、パソコンでも代用できるという。


 2つ目は「吹き込む」。「書く」ことと同様に、ICレコーダーやスマートフォンのボイスメモに録音することで、「覚えておかなくては」というプレッシャーから自分を解放できある。


 3つ目は「人に話す」。「友人と話していて『その話、3度目だよ』などと言われた経験は、ありませんか? 聞き手はこちらが思っている以上に、相手の話を覚えているもの。ここに期待して、人に話してしまいましょう。相手も自分も思い出せなければ、『必要ない知識だったんだ』と思えばいい」(前野さん)。


■覚えてしまったものは?:既にあるものは整理整頓を


 既に覚えてしまっている知識や情報は整理整頓すると、思考がはかどると前野さんは語る。

 「作業をする時は、必要な道具が取り出しやすいよう整理してあれば、手際よく進みますよね。知識や情報は、いわば『考える時に使う道具』。整理しておきましょう」(前野さん)


 前野さんがお勧めするのは、テーマを決め、仕事の知識や情報をカードに書いて分類することだ。


 「例えばテーマを『プレゼン』に決めたら、声の出し方やグラフの作り方など、プレゼンに関連することを思いつくまま書く。書く時は後で分類しやすいよう、1枚に1ネタが原則です」(前野さん)


既に覚えてしまった記憶は、必要な時に取り出しやすいよう整理整頓すると思考がはかどる。前野さんが勧めるのは、テーマを決めて紙に書き出し、自分でカテゴリーを決めて並び替えることだ。「テーマが決まったら、まずは関連することを思いつくまま書き出します。カードを使うと便利です。例えばテーマが『プレゼン』なら、声の出し方やグラフの作り方、話の流れのチェック方法などについて書いていく。それを『人前での振る舞い』『資料の作り方』『話の構成』など、自分の好きなように、カテゴリーに分けます。『この知識や情報は、こういう時に使えばいいんだな』と、目に見える形で理解すると、必要な時に取り出しやすくなります」(前野さん)


 次にカードを並べ替える。「いつ、どの情報を使うのか」が一目で分かるよう、「人前での振る舞い」「資料の作り方」「話の構成」などと分類するのだ。


 「知識や情報も、いったんカードなどに書き出し、目に見える形で整理すると、持ち歩かなくても考える時に取り出しやすくなります。ぜひ、試してください」(前野さん)


この人に聞きました

前野隆司さん

 慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。東京工業大学卒業。キヤノン、米ハーバード大学を経て現職。キヤノン時代には、世界中のカメラメーカーに影響を与えた新技術を開発した。『思考の整理術』(朝日新聞出版)ほか、著書多数。


(ライター 田村知子)


[日経ビジネスアソシエ 2014年12月号の記事を基に再構成]