『日本歯技』6月号「ただいまお気に入り」
秋田県歯科技工士会 岩澤 毅
伊吹 文明 (著)
増補改訂版 いぶき亭 四季の食卓―衆議院議長のこだわり手料理
講談社エディトリアル; (2015/03)
1800円+税
昨年末の衆議院解散まで議会人としての最高位、衆議院議長を務めていた伊吹文明議員が、食を語りながら人のあり様を語り、京の町衆の躾を語る一冊です。
「はじめに」で、「 私の食は、金をかけず手間をかける、金を使わず気を遣うレシピ。だれでも気軽に作れるものです。/ユネスコの無形文化遺産に認定された和食は、高級料亭の豪華な料理ではありません。海の幸、山の幸の恵みに感謝し、余すところなくいただきつくす、謙虚な日本人の食に対する心根、「いただきます」の心の認定です。/いぶき亭のコンセプトの原点にある私の受けた躾け、京町衆の心根は、巻末の私の「京がたり」にあります。慎ましい豊かさを、食という人間の原点を通じ感じ取っていただければと願っています。」と記す。
本書のもとになる連載を自身の後援会の会報に継続し、『いぶき亭 四季の食卓』として出版したのが六年前、そして「増補改訂版」として一部の原稿を入れ替え、加筆を加え、本書の発行となっている。
見開き2ページに、一つのテーマが収め、春編から四季に沿い読み進められるように工夫されている。四季の変化を語り、京の町衆の伝統を語り、祖父母が施してくれた躾を語り、戦後の食糧難の時代、父母が苦労をしながら、知恵と工夫を重ね、幼少の兄妹のために用意した食と当時の日常生活の思い出が語られる。
人間の形成が、幼少期の食の在り方、誰とどのようにして「何を食べたか」に大きく影響されると強く思わせる。
選挙民から預かった体と暴飲暴食を慎み、自己を律し、食材に思いを置き、自身の手作りの食を楽しむとなるとやはり夕食となるようだ。しかも晩酌のあてに関するものが多い。この料理には、この酒。この酒には、この料理と語りは続く。酒造業界を担当する旧大蔵省出身である著者の長年の地方の蔵元との交流も、垣間見ることが出来る。
当選を重ね、成すべきことを成すための政治家の信条や心根が、食を語りながら書き記されている。