食を語りながら、人のあり様と政治を語る
投稿者 歯職人
衆議院議長を務めた伊吹文明衆議院議員が、食を語りながら、人のあり様を語り、京の町衆の躾を語り、抑え気味に昨今の政治を語る一冊です。
著者は「はじめに」で、「 私の食は、金をかけず手間をかける、金を使わず気を遣うレシピ。だれでも気軽に作れるものです。/ユネスコの無形文化遺産に認定された和食は、高級料亭の豪華な料理ではありません。海の幸、山の幸の恵みに感謝し、余すところなくいただきつくす、謙虚な日本人の食に対する心根、「いただきます」の心の認定です。/いぶき亭のコンセプトの原点にある私の受けた躾け、京町衆の心根は、巻末の私の「京がたり」にあります。慎ましい豊かさを、食という人間の原点を通じ感じ取っていただければと願っています。」と記している。
著者の伊吹議員が自身の後援会の会報に、本書のもとになる連載を長期に継続し、『いぶき亭 四季の食卓』として出版したのが六年前、そして「増補改訂版」として一部の原稿を入れ替え、加筆を加え、本書の発行となっている。この原稿に記された諸々が大切にされ、愛されている一つの証ではないだろうか。
衆議院議員として選挙区である京都と国会のある東京に二つの生活拠点を持ち、選挙区との関係等諸般の事情から単身赴任状態になる暮らしの中から、有権者からの預かりものの政治家の身体に、負担のかからない食生活を心がける著者の実践の中から磨かれた「いぶき亭」の「食卓」の暮らしがある様だ。
見開き2ページに、一つの料理や素材等がテーマとして収まり、四季に沿い読み進められるように配置されている。四季の変化を語る中で、京の町衆の伝統と文化、生き方を語り、祖父母が伊吹少年に施してくれた躾を語り、戦後の食糧難の時代、父母が苦労をしながら、知恵と工夫を重ね、幼少の兄妹のために用意した食と当時の日常の生活の思い出を語る。そこにあるひもじさの記憶は、当時の日本に共通し、日本人が共有するものなのだろう。このひもじさの記憶が、戦後日本の復興を支えた共通認識、国民意志の基盤となったのだろう。
人間あるいは人格の形成が、幼少期の食のあり方、誰とどのようにして、何を食べたかに大きく影響されると強く思わせるものがある。父母の愛が、祖父母の情が、生を支える食を通してストレートに感じることが出来る、振り返れば、ある種幸福な時代だったのだろう。
気を落ちつけ、自身の手作りの食を楽しむとなるとやはり夕食、しかも晩酌のあてに関するものが多い。この料理には、この酒。この酒には、この料理と語りは続く。酒造業界を担当する旧大蔵省出身の著者の地方の蔵元との人間関係は、今も長く続いている様だ。
昨今の「○○チルドレン」や「○○ガール」と、比較するのも失礼に当たると思うが、選挙の洗礼を受けた者として、己を律し、選挙民の負託に応え、成すべきことを成すための政治家の信条や心根が、食を語りながら書き記されている。
著者が時折見せる若き政治家への言わば「小言」や「苦言」が、止むにや止まれぬものであると思わせる背景を本書から垣間見ることができる。何時の頃からか、政治家と呼ぶ以前に、人として不勉強な上に、テレビ受け狙いのフォーマンスをもっぱらとする輩が跋扈し、「風」のみを頼りに、研鑽と無縁に、小賢しさすらないと思われる政治家を選び続ける有権者に、人のあり様、代議員制のあり様を語りかけていると読んだのは、深読みだろうか。
「風格」と「文人政治家」という言葉を、思い出させた一冊です。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%84%E3%81%B6%E3%81%8D%E4%BA%AD-%E5%9B%9B%E5%AD%A3%E3%81%AE%E9%A3%9F%E5%8D%93%E2%80%95%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E9%95%B7%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A0%E3%82%8F%E3%82%8A%E6%89%8B%E6%96%99%E7%90%86-%E4%BC%8A%E5%90%B9-%E6%96%87%E6%98%8E/dp/4907514131/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1427689516&sr=8-1&keywords=%E4%BC%8A%E5%90%B9%E4%BA%AD%E3%80%80%E5%9B%9B%E5%AD%A3%E3%81%AE%E9%A3%9F%E5%8D%93%E3%83%BB%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E9%95%B7%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%A0%E3%82%8F%E3%82%8A%E6%89%8B%E6%96%99%E7%90%86
いぶき亭 四季の食卓―衆議院議長のこだわり手料理 (増補改訂版)
伊吹 文明【著】
価格 \1,944(本体\1,800)
講談社エディトリアル(2015/03発売)
サイズ B6判/ページ数 231p/高さ 20cm
商品コード 9784907514136
NDC分類 596.04
内容説明
京都出身の政治家、伊吹文明が書き綴る、だれにでも簡単につくれる京町衆の手料理。ありふれた食をたいせつにしよう!
目次
春の食卓(春のキャベツ;桜を食う ほか)
夏の食卓(鮎ご飯;わさびの辛さ、うまさ ほか)
秋の食卓(秋の食卓;柴漬け七変化 ほか)
冬の食卓(夜のきつね;湯あがりの一杯 ほか)
著者紹介
伊吹文明[イブキブンメイ]
昭和13年京都生まれ。生家は文久年間創業の繊維問屋。京都大学経済学部卒業後、大蔵省(当時)に入省、英国駐在、蔵相秘書官を経て、昭和58年より衆議院議員(当選11回)。労働大臣、国家公安委員長、文部科学大臣、財務大臣、自民党幹事長、衆議院議長を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)