歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

◆噛める入れ歯、安全な差し歯のために情報開示を

2002年07月30日 | 朝日新聞・週刊金曜日
◆噛める入れ歯、安全な差し歯のために情報開示を 

 最近の食と医療への信頼のゆらぎは、眼を覆うばかりである。また、恐ろしいことに食生活の入り口であり歯科医療の大きな部分を占める入れ歯・さし歯にも国民の目に届かない部分で大きな歪みとモラルハザード(倫理の崩壊)が進んでいる。入れ歯・差し歯は、患者の口腔内に長期間にわたり存在し、食生活と美容そして全身の健康に大きな影響を与える。

 しかし、国民(患者)は、入れ歯・差し歯を実際に製作している歯科技工士や歯科技工所に接する機会は少ない。また、使用材料に関する何らの情報を得る機会も無い。国民(患者)ひとりひとりが情報を得、比較検討の上で患者自身にとって最良の選択をする機会(権利)が失われている。歯科技工士がより患者さんの要望と個性に適合した入れ歯・差し歯を製作するためには、実際に製作する歯科技工士が患者と直接に対面し、製作上必要な患者の微細な要望とその背景を聞き、知ることがもっとも重要である。

 一部新聞報道に「輸入入れ歯合法論」が語られ、歯科医師の裁量権によって遠く海外の今だ歯科医療制度・法制度すら確立していない国々から、使用材料・製作方法・製作環境・製作者が不明な、何ら我が国の歯科医療行政の規準や安全性の配慮すら受けない歯科技工物が、次代を担う新技術であるかごとき印象を読者に与えている。

 我が国の国民皆保険制度の一翼を担い、歯科医療の入れ歯・さし歯を高水準に保つための歯科技工士の資格・養成制度は、半世紀の歴史を経て崩壊の危機を迎えている。さらに、18歳人口の減少とともに歯科技工士養成所への志願者の減少、中退者の増加、若年歯科技工士の高い離職率よって、発展し高度化する歯科技工学・歯科技工技術を担うべき後継者が不足している。

 よってここに、国民の信頼にかなう歯科医療と入れ歯・差し歯のために緊急に対策を必要とする具体策を四点に集約し提案する。

第一に入れ歯・差し歯の製作歯科技工士名・使用材料・製作方法・歯科技工製作料金等の必要情報の患者への報告書発行義務化である。

第二に製作した歯科技工士による保険支払い者への製作報告書の発行義務化である。繰り返される一部医療機関の二重請求・架空請求事件などの制度的予防措置となる。これは、歯科医療に対し国民に潜在する不信感解消への医療者側の基礎的な務めでもある。

第三に第二の実行条件として、医薬分業の実態を前例とした「歯科治療・歯科技工分業」を理念として具体化し、歯科技工士を健康保険制度内に位置付け、保険支払い者から委託歯科技工報酬(歯科技工料金)の直接支払いを実施することである。このことは、安易な過当競争からくる不安定価格と粗悪品の蔓延を防止する重要な役割を持つのである。

第四に、発展し高度化する歯科技工学・歯科技工技術の質の確保を保障する歯科技工士養成所の四年制大学化である。

 医療保険制度、特に歯科医療につきまとう長年の国民(患者)からの不信を解消し、国民(患者)と保険者側の信頼に応える歯科医療・歯科技工の制度設計が緊急の課題と考え、ここに提言する。

2002.7.19記
2002.7.30付不採用通知

最新の画像もっと見る