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歯科技工士・岩澤 毅

森 達也 (著)  世界が完全に思考停止する前に (角川文庫)

2011年01月03日 | amazon.co.jp・リストマニア
森達也氏の危機感の表明, 2011/1/3

By 歯職人

 森達也氏の2003年から2004年の『週刊現代』連載を中心とした時評集です。
 地下鉄サリン事件、2001.9.11アメリカ同時多発テロ事件以降のメディア業界と日本の「居心地」の悪さに対する率直な異議申し立てが諸々論じられている。
 本書では、テレビで取り上げるには「憚られる」森達也氏の視点・論点が展開されている。
 ドキュメンタリー映画監督、「A」「A2」の製作者、映像表現者としてマイケル・ムーアの手法とその作品『ボウリング・フォー・コロンバイン』への評価は手厳しい。
 「複眼」を獲得するために、森達也氏の世間とズレル、流行に乗れない、多数と集団に馴染めない、他からの評価に鈍感な性癖と視点は極めて貴重と思います。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4043625030/ref=cm_cr_mts_prod_img

森 達也公式サイト
http://moriweb.web.fc2.com/mori_t/index.html


森 達也(もり・たつや)プロフィール

映画監督/作家

1956年 5月 広島県呉市生まれ。
1986年 テレビ番組制作会社に入社。デビュー作は小人プロレスのテレビドキュメント作品。以降、報道系、ドキュメンタリー系の番組を中心に、数々の作品を手がける。
1998年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画『A』を公開。
2001年、続編『A2』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。その後はテレビ東京の番組『ドキュメンタリーは嘘をつく』などに関わる。現在は執筆が中心。

【主な著書】
『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』、『クォン・デ~もう一人のラストエンペラー』『世界が完全に思考停止する前に』『職業欄はエスパー』『ドキュメンタリーは嘘をつく』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(ちくま文庫)、『下山事件』『東京番外地』(新潮社)、『池袋シネマ青春譜』(柏書房)、『いのちの食べかた』『世界を信じるためのメソッド』『きみが選んだ死刑のスイッチ』(理論社)、『戦争の世紀を超えて』『ぼくの歌・みんなの歌』『視点をずらす思考術』(講談社)、『日本国憲法』(太田出版)、『王様は裸だと言った子どもはその後どうなったか』『ご臨終メディア』(集英社)、『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)『死刑』(朝日出版社)『東京スタンピード』(毎日新聞社)『マジョガリガリ(エフエム東京)『メメント』(実業之日本社)『神さまってなに?』(河出書房新社)『死刑のある国ニッポン』(週刊金曜日)など多数。

セカイガカンゼンニシコウテイシスルマエニ カドカワブンコ
角川文庫
世界が完全に思考停止する前に

森 達也【著】
角川書店 (2006/07/25 出版)

279p / 15cm / A6判
ISBN: 9784043625031
NDC分類: 304
価格: ¥539 (税込)

詳細
地下鉄サリン事件から11年、9.11から5年。
イラク戦争から3年…。
過剰な善意や偏ったヒューマニズムが蔓延する中、いま僕たちはかつてないスケールの麻痺を抱えて生きている。
一方テロへの不安から社会は異質の者への憎悪を加速し、管理統制下の道を辿り続ける。
この現実を前に僕らは「一人称の主語」で思考しているか。
他者へ想像力を馳せているか。
いま最も信頼できるドキュメンタリー作家が煩悶しながら問いかける、まっとうな「日常感覚」評論集。


世界は今、僕らの同意のもとにある。(作られる聖域;戦争は嫌だという「感情」 ほか)
いつになったら、日本は大人になるんだろう。(タマちゃんを食べる会;で、何だったんだろう、あの牛丼騒ぎって。 ほか)
メディアは、どこまで無自覚に報道し続けるのだろう。(メディア訴訟は黒星続き;消された四分間 ほか)
二十一世紀のメディアを生きる人々(戦場のフォトグラファー;精神科救急研修医 ほか)

著者紹介
森達也[モリタツヤ]
1956年生まれ。ディレクターとして、テレビ・ドキュメンタリー作品を多く制作。98年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画「A」を公開、ベルリン映画祭に正式招待され、海外でも高い評価を受ける。2001年映画「A2」を公開し、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

●森 達也さんエッセイ
「死と生」

 一週間ほど前、この2月に死刑が最高裁で確定したオウムの林泰男から、暑中見舞いの葉書が来た。淡々とした文面だった。確定前と確定後に生活に大きな変化はないけれど、映画を週に何回かビデオで視聴できるようになったので、それは単純にうれしいと、几帳面な文字で綴られていた。

 葉書を僕は何度も読み返す。ほぼ同年輩の彼は、数年後には東京拘置所の塀の内側で処刑される。絞首される。その瞬間を僕は(おそらく)知らない。気づかない。処刑は基本的には朝の9時前後に行われるから、ちょうど目を覚まして寝ぼけながら歯を磨いているころだろう。トーストにジャムなどをつけて、コーヒーカップを片手に、もぐもぐと食べている時間かもしれない。

 小学校の低学年の頃、夜更けに布団の中に入ってから、ふと自分はいつか死ぬのだと考えた。そしてとても強い恐怖に襲われた。
 死ぬということは消えること。自分というこの存在が消えること。
 その意味がわからない。暑いとか寒いとか、悲しいとかうれしいとか、そう感じる自分がいない。あれは何だとかこれはこうしようとか考える自分がいない。
 その状況がわからない。そして怖い。死ぬ瞬間を自分は(たぶん)感知できない。感知した瞬間に存在が消えている。それはどういうことなのだろう。

 そして今も、時おりは自分が消えてなくなることを考える。でもやっぱりわからない。うまく想像できない。自分が死ぬということはどういうことだろう。死んで消えるということはどういうことなのだろう。
 だから死刑の意味も僕にはわからない。当たり前だ。だって死の意味がわからないのだ。

 でも考える。死の意味そのものは(おそらく)絶対にわからないだろうけれど、考えることは放棄したくない。そして死刑について、見えるものは目にしたい。聞こえる声は聞きたい。目をそむけたくない。だって僕は今のこの社会の一員だ(そしてあなたも)。死刑制度も含めてこの社会のすべてのシステムを、一応は容認する立場なのだ。
  だから見る。そして聞く。できるかぎりは五感を研ぎ澄ます。そのうえで考える。人が人を殺すということは何なのか。林泰男が加担した地下鉄サリン事件では、12人の職員や乗客が殺された。その罪を贖うことなどできない。たとえ自分の命をもってしても。だから人は人を殺してはいけない。何度も何度も同じ(そして凡庸な)結論に立ち返る。

 今も考え続けている。死について。そして死刑について。これからもずっと考え続けるつもりだ。だって今は生きているから。
【森 達也】

●森 達也さんプロフィール
映画監督/作家
1956年広島県呉市生まれ
1975年新潟県立新潟高等学校卒業
1975年立教大学法学部法学科入学
1980年 卒業
1985年 ㈱テレコム・ジャパン入社 テレビ・ディレクターとなる。
1998年オウム真理教の荒木浩を主人公とするドキュメンタリー映画「A」を公開、各国映画祭に出品し、海外でも高い評価を受ける。
2001年、続編「A2」が、山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。

著書に『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』、『クォン・デ~もう一人のラストエンペラー』『世界が完全に思考停止する前に』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(ちくま文庫)、『下山事件』『東京番外地』(新潮社)、『池袋シネマ青春譜』(柏書房)、『いのちの食べかた』『世界を信じるためのメソッド』(理論社)、『戦争の世紀を超えて』『ぼくの歌・みんなの歌』(講談社)、『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)、『王様は裸だと言った子どもはその後どうなったか』『ご臨終メディア』(集英社)、『悪役レスラーは笑う』(岩波新書)、『死刑』(朝日出版社)など多数。

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