#安全配慮義務
安全配慮義務とは?従業員と職場の安全性を高めるためにすべきこと
2018年3月13日
健康経営
リロ総務人事タイムズ編集部
https://www.reloclub.jp/relotimes/article/10284
貴社では十分に安全配慮義務が果たされていますか?ここでは、安全配慮義務の概要とその必要性、企業が使用者として安全配慮義務を果たすために取るべき措置や、具体的な施策の例を紹介します。また、日本国内とは異なる種類のストレスに晒される海外勤務者に対する安全配慮についても触れていきます。企業と従業員のリスク回避の一環としてお役立てください。
このページの目次
1 安全配慮義務とは?
2 安全配慮義務の必要性
3 安全配慮義務を果たすための施策例
4 海外勤務者に関する安全配慮義務
http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/line_care/law/abor.html
使用者の安全配慮義務
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として定められています。事業者は、労働災害を防止するために、労働安全衛生法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境をつくり、労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならない、と定められています。.
使用者の安全配慮義務
平成20年3月に施行された労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)を明文化しています。
危険作業や有害物質への対策はもちろんですが、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。
労働契約法には罰則がありませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。.
安全配慮義務と健康配慮義務に関する判例
事例1 システムコンサルタント事件
最高裁判所第二小法廷 平成12年10月13日 労判第791号
【概要】.
Aさんは、ソフト開発会社でシステムエンジニアとしての業務に従事していました。入社以来、年間総労働時間は平均して約3,000時間近くに達していました。
Aさんは、就任してから死亡するまでの約1年間、プロジェクトリーダーとしてプロジェクトの進捗管理、要員管理、品質管理及び発注元及び協力会社との調整作業にあたっていました。
クライアントと作業者の間での板挟み状態の中、労働時間だけでなく、精神的負荷まで強いられることとなりました。.
その後、Aさんは、自宅で倒れ、直ちに病院に緊急搬送されましたが、脳幹部出血により死亡しました。.
【裁判の結果】.
安全配慮義務を尽くさなかった債務不履行がある旨主張し、逸失利益・慰謝料等の損害賠償を求めました。
第2審は3,200万円の損害賠償責任を認めました。.
事例2 電通事件
最高裁判所第二小法廷 平成12年3月24日 労判第779号
【概要】.
Bさんは、24歳で電通に入社しました。ラジオ局に配属され企画立案などの業務に携わっていましたが、長時間残業・深夜勤務・休日出勤などの過重労働が続いた結果、うつ病になり、自宅で自殺しました。.
【裁判の結果】.
下記の内容で合意に至りました。
(1)会社は遺族(両親)に謝罪するとともに、社内に再発防止策を徹底する
(2)会社は一審判決が命じた賠償額(1億2600万円)に遅延損害金を加算した合計1億6800万円を遺族に支払う.
. .
使用者は、安全配慮義務とならんで健康配慮義務を疎かにすると、高額の損害賠償金を請求されることもあります。企業のリスク管理上真剣に取り組まなければ、企業存続に関わる問題であると言えますね。.
.
事例3 アテスト(ニコン熊谷製作所)うつ病自殺事件
東京高裁 平成21年7月28日 労判990号
【概要】.
Cさんは、業務請負会社である株式会社アテスト(旧ネクスター)に就職し、株式会社ニコンの熊谷工場において、勤務していました。
十分な支援体制がとれていない状況下において、過度の仕事量、また、長時間に及ぶ拘束に縛られ、身体的精神的な負担を伴いながら勤務していました。
更に、正社員でないために、解雇への不安も重なり、自殺により死亡しました。.
【裁判の結果】.
裁判長は「不規則、長時間の勤務で、作業内容や閉鎖的な職場の環境にも精神障害の原因となる強い心理的負担があり、自殺原因の重要部分は業務の過重によるうつ病にある」と指摘しました。
また、「人材派遣、業務請負など契約形態の違いは別としても、両社は疲労や心理的負担が蓄積しすぎないよう注意すべきだった」と安全配慮義務違反を認定しました。
結果、両社に損害賠償の支払を命じました。(現在上告中)実質的な派遣労働者の過労自殺を認め、賠償を命じた判決は初めての事例です。(過労死弁護団全国連絡会議).
https://romsearch.officestation.jp/jinjiroumu/4676
安全配慮義務とメンタルヘルスについて確認を!会社の対策を解説
更新日:2019.01.09
人事労務管理メンタルヘルス
近年、メンタルヘルス不調の従業員が増えてきており、対策として相談窓口を設置している会社も多くなっています。担当者の皆さんも労働契約上においては、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っていることはご存じでしょう。
しかし、上記のような相談窓口を従業員に用意するだけでは、安全配慮義務を果たしているというには不十分です。
今一度、安全配慮義務とメンタルヘルスについて確認してみましょう。
目次
1安全配慮義務とは?使用者が配慮すべきこと・使用者が安全配慮義務を怠ったと見なされる条件
2メンタルヘルスの現在の状況および概要
3メンタルヘルス対策とメンタルヘルス推進担当者の役割・事業場でのメンタルヘルス対策
・メンタルヘルス対策における4つのケア
4労働災害における安全配慮義務違反について・システムコンサルタント事件
・電通過労自殺事件
5まとめ
安全配慮義務とは?使用者が配慮すべきこと
安全配慮義務とは、労働者が安心して、生命や身体の安全が確保された中で働けるように、使用者が配慮する義務のことです。労働規約に明記されていなくても、安全配慮義務は守るべき義務として認められています。
2009年(平成21年)に労働契約法第5条が改正されるまでは、民法にも規定はなかったのですが、裁判での判例が積み重ねられ、コンセンサスを形成してきました。現在では、安全配慮義務について明文化されています。
使用者が安全配慮義務を怠り以下の条件を満たす場合は、労働者に対して賠償しなければなりません。
使用者が安全配慮義務を怠ったと見なされる条件
•使用者の認識にかかわらず、損害の発生が予見可能であること
•結果回避義務を果たしていないこと
•因果関係があること
この賠償は、労災認定による治療費補償と同時に請求される場合もあります。また、労働者の安全には心身の健康も含まれることに注意してください。
メンタルヘルスの現在の状況および概要
厚生労働省公式サイトの「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によると、日本人のおよそ40人に1人に当たる320万人がこころの病気で治療をしています(平成23年)。
また、同じく厚生労働省が2017年(平成 29 年)に行った「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況では、正社員でメンタル不調が原因で1カ月以上休職した労働者は全体で0.4%、メンタル不調が元で退職した労働者は0.3%いました。
こころの病気は、誰でもかかりうる病気で、生涯でこころの病気にかかる経験をする人は日本人のおよそ5人に1人とも言われているのが実態です。その一方で、じっくりと時間をかけることで治る病気でもあります。
こころの病気が厄介な点は、身体的な病気や怪我とは異なり、目に見えにくく周囲からは分かりにくいことです。使用者側からメンタルヘルスの実態を把握する方法として、「ストレスチェック」が制度化されていますので次項で解説します。
メンタルヘルス対策とメンタルヘルス推進担当者の役割
企業におけるメンタルヘルス対策については、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が実施されています。また、厚生労働省で指針が示されていますので順番に見ていきましょう。
メンタルヘルス対策の目的は、全従業員のこころの健康向上および、メンタル疾患に陥った労働者へのフォロー、安全衛生義務の履行です。
事業場でのメンタルヘルス対策の柱は、一次予防と二次予防、三次予防の3本になります。
事業場でのメンタルヘルス対策
•一次予防:ヘルス・プロモーションによる積極的な労働者の健康保持・増進施策
•二次予防:ストレスチェックや産業医等との面談などによる健康不全の早期発見と対策
•三次予防:メンタル系疾患既往者に対する再燃・再発防止施策
これらを実現するため、4つのケアも定められています。
メンタルヘルス対策における4つのケア
1.セルフケア:労働者自ら行うメンタルケア
2.ラインによるケア:各職場の管理職による部下のメンタルケア
3.事業場内資源によるケア:産業医、衛生管理者、衛生推進者、保健師等によるメンタルケア
4.事業場外資源によるケア:事業所外の各種機関によるケアサービスの利用
事業場内資源によるケアの中に「衛生推進者」があります。事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割は以下の通りです。
<事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割>
・心の健康づくり計画の策定・労働者への周知・実行状況の把握の実務
・セルフケア、ラインによるケアを推進するための労働者教育、管理監督者教育の計画・立案・実施・評価の実務
・事業場内のメンタルヘルスに関する相談窓口
・事業場外資源との連携の窓口
引用元:安全衛生キーワード>メンタルヘルス推進担当者|厚生労働省 職場のあんぜんサイト(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo87_1.html)
労働災害における安全配慮義務違反について
安全配慮義務違反を起こしたことにより労働災害などが発生した際、企業は以下の責任が問われます。
<労働災害に問われる企業の責任>
・刑事上の責任:労働安全衛生法違反、業務上過失致死傷罪
・民事上の責任:不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償
・行政上の責任:作業停止・使用停止等の行政処分
・補償上の責任:労働基準法及び労働者災害補償保険法による補償
・社会的な責任:企業の信用低下、存在基盤の喪失
引用元:労働災害の発生と企業の責任について|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/081001-1b_0006.pdf)
かなり広い範囲での責任が問われますが、民事上の損害賠償や社会的な信用失墜は、企業活動の継続にもかなりのダメージとなりえます。
長時間労働による過労死や自殺による裁判の結果、企業側に支払いを命じた判例を見ても、賠償額は高額になる場合も少なくありません。
システムコンサルタント事件
•死因:過労死
•賠償額:3,200万円
•判決日:最高裁 2000年(平成12年)10月13日
電通過労自殺事件
•死因:過労自殺
•賠償額:1億6,800万円
•判決日:最高裁 2000年(平成12年)3月24日
このような状況を招かないよう、安全衛生委員会による活動とともに、メンタルヘルス対策も整えていくよう今一度自社の制度などを見直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
安全配慮義務とメンタルヘルスについて、概要と会社で必要な対策を中心に解説しました。安全配慮義務は労働規約に明記していなくても問われるものであること、メンタルヘルス対策は重要であることがポイントです。
自社の安全衛生活動やメンタルヘルス対策について、再度確認して不足している部分はブラッシュアップするなど、検討をする際にご紹介した情報をお役立てください。
記事監修山本 務|やまもと社会保険労務士事務所
安全配慮義務とは?従業員と職場の安全性を高めるためにすべきこと
2018年3月13日
健康経営
リロ総務人事タイムズ編集部
https://www.reloclub.jp/relotimes/article/10284
貴社では十分に安全配慮義務が果たされていますか?ここでは、安全配慮義務の概要とその必要性、企業が使用者として安全配慮義務を果たすために取るべき措置や、具体的な施策の例を紹介します。また、日本国内とは異なる種類のストレスに晒される海外勤務者に対する安全配慮についても触れていきます。企業と従業員のリスク回避の一環としてお役立てください。
このページの目次
1 安全配慮義務とは?
2 安全配慮義務の必要性
3 安全配慮義務を果たすための施策例
4 海外勤務者に関する安全配慮義務
http://www.kenkou-hataraku.metro.tokyo.jp/mental/line_care/law/abor.html
使用者の安全配慮義務
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法は、労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として定められています。事業者は、労働災害を防止するために、労働安全衛生法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境をつくり、労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならない、と定められています。.
使用者の安全配慮義務
平成20年3月に施行された労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、使用者の労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)を明文化しています。
危険作業や有害物質への対策はもちろんですが、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれると解釈されています。
労働契約法には罰則がありませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。.
安全配慮義務と健康配慮義務に関する判例
事例1 システムコンサルタント事件
最高裁判所第二小法廷 平成12年10月13日 労判第791号
【概要】.
Aさんは、ソフト開発会社でシステムエンジニアとしての業務に従事していました。入社以来、年間総労働時間は平均して約3,000時間近くに達していました。
Aさんは、就任してから死亡するまでの約1年間、プロジェクトリーダーとしてプロジェクトの進捗管理、要員管理、品質管理及び発注元及び協力会社との調整作業にあたっていました。
クライアントと作業者の間での板挟み状態の中、労働時間だけでなく、精神的負荷まで強いられることとなりました。.
その後、Aさんは、自宅で倒れ、直ちに病院に緊急搬送されましたが、脳幹部出血により死亡しました。.
【裁判の結果】.
安全配慮義務を尽くさなかった債務不履行がある旨主張し、逸失利益・慰謝料等の損害賠償を求めました。
第2審は3,200万円の損害賠償責任を認めました。.
事例2 電通事件
最高裁判所第二小法廷 平成12年3月24日 労判第779号
【概要】.
Bさんは、24歳で電通に入社しました。ラジオ局に配属され企画立案などの業務に携わっていましたが、長時間残業・深夜勤務・休日出勤などの過重労働が続いた結果、うつ病になり、自宅で自殺しました。.
【裁判の結果】.
下記の内容で合意に至りました。
(1)会社は遺族(両親)に謝罪するとともに、社内に再発防止策を徹底する
(2)会社は一審判決が命じた賠償額(1億2600万円)に遅延損害金を加算した合計1億6800万円を遺族に支払う.
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使用者は、安全配慮義務とならんで健康配慮義務を疎かにすると、高額の損害賠償金を請求されることもあります。企業のリスク管理上真剣に取り組まなければ、企業存続に関わる問題であると言えますね。.
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事例3 アテスト(ニコン熊谷製作所)うつ病自殺事件
東京高裁 平成21年7月28日 労判990号
【概要】.
Cさんは、業務請負会社である株式会社アテスト(旧ネクスター)に就職し、株式会社ニコンの熊谷工場において、勤務していました。
十分な支援体制がとれていない状況下において、過度の仕事量、また、長時間に及ぶ拘束に縛られ、身体的精神的な負担を伴いながら勤務していました。
更に、正社員でないために、解雇への不安も重なり、自殺により死亡しました。.
【裁判の結果】.
裁判長は「不規則、長時間の勤務で、作業内容や閉鎖的な職場の環境にも精神障害の原因となる強い心理的負担があり、自殺原因の重要部分は業務の過重によるうつ病にある」と指摘しました。
また、「人材派遣、業務請負など契約形態の違いは別としても、両社は疲労や心理的負担が蓄積しすぎないよう注意すべきだった」と安全配慮義務違反を認定しました。
結果、両社に損害賠償の支払を命じました。(現在上告中)実質的な派遣労働者の過労自殺を認め、賠償を命じた判決は初めての事例です。(過労死弁護団全国連絡会議).
https://romsearch.officestation.jp/jinjiroumu/4676
安全配慮義務とメンタルヘルスについて確認を!会社の対策を解説
更新日:2019.01.09
人事労務管理メンタルヘルス
近年、メンタルヘルス不調の従業員が増えてきており、対策として相談窓口を設置している会社も多くなっています。担当者の皆さんも労働契約上においては、会社は従業員に対して安全配慮義務を負っていることはご存じでしょう。
しかし、上記のような相談窓口を従業員に用意するだけでは、安全配慮義務を果たしているというには不十分です。
今一度、安全配慮義務とメンタルヘルスについて確認してみましょう。
目次
1安全配慮義務とは?使用者が配慮すべきこと・使用者が安全配慮義務を怠ったと見なされる条件
2メンタルヘルスの現在の状況および概要
3メンタルヘルス対策とメンタルヘルス推進担当者の役割・事業場でのメンタルヘルス対策
・メンタルヘルス対策における4つのケア
4労働災害における安全配慮義務違反について・システムコンサルタント事件
・電通過労自殺事件
5まとめ
安全配慮義務とは?使用者が配慮すべきこと
安全配慮義務とは、労働者が安心して、生命や身体の安全が確保された中で働けるように、使用者が配慮する義務のことです。労働規約に明記されていなくても、安全配慮義務は守るべき義務として認められています。
2009年(平成21年)に労働契約法第5条が改正されるまでは、民法にも規定はなかったのですが、裁判での判例が積み重ねられ、コンセンサスを形成してきました。現在では、安全配慮義務について明文化されています。
使用者が安全配慮義務を怠り以下の条件を満たす場合は、労働者に対して賠償しなければなりません。
使用者が安全配慮義務を怠ったと見なされる条件
•使用者の認識にかかわらず、損害の発生が予見可能であること
•結果回避義務を果たしていないこと
•因果関係があること
この賠償は、労災認定による治療費補償と同時に請求される場合もあります。また、労働者の安全には心身の健康も含まれることに注意してください。
メンタルヘルスの現在の状況および概要
厚生労働省公式サイトの「みんなのメンタルヘルス総合サイト」によると、日本人のおよそ40人に1人に当たる320万人がこころの病気で治療をしています(平成23年)。
また、同じく厚生労働省が2017年(平成 29 年)に行った「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況では、正社員でメンタル不調が原因で1カ月以上休職した労働者は全体で0.4%、メンタル不調が元で退職した労働者は0.3%いました。
こころの病気は、誰でもかかりうる病気で、生涯でこころの病気にかかる経験をする人は日本人のおよそ5人に1人とも言われているのが実態です。その一方で、じっくりと時間をかけることで治る病気でもあります。
こころの病気が厄介な点は、身体的な病気や怪我とは異なり、目に見えにくく周囲からは分かりにくいことです。使用者側からメンタルヘルスの実態を把握する方法として、「ストレスチェック」が制度化されていますので次項で解説します。
メンタルヘルス対策とメンタルヘルス推進担当者の役割
企業におけるメンタルヘルス対策については、改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が実施されています。また、厚生労働省で指針が示されていますので順番に見ていきましょう。
メンタルヘルス対策の目的は、全従業員のこころの健康向上および、メンタル疾患に陥った労働者へのフォロー、安全衛生義務の履行です。
事業場でのメンタルヘルス対策の柱は、一次予防と二次予防、三次予防の3本になります。
事業場でのメンタルヘルス対策
•一次予防:ヘルス・プロモーションによる積極的な労働者の健康保持・増進施策
•二次予防:ストレスチェックや産業医等との面談などによる健康不全の早期発見と対策
•三次予防:メンタル系疾患既往者に対する再燃・再発防止施策
これらを実現するため、4つのケアも定められています。
メンタルヘルス対策における4つのケア
1.セルフケア:労働者自ら行うメンタルケア
2.ラインによるケア:各職場の管理職による部下のメンタルケア
3.事業場内資源によるケア:産業医、衛生管理者、衛生推進者、保健師等によるメンタルケア
4.事業場外資源によるケア:事業所外の各種機関によるケアサービスの利用
事業場内資源によるケアの中に「衛生推進者」があります。事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割は以下の通りです。
<事業場内メンタルヘルス推進担当者の役割>
・心の健康づくり計画の策定・労働者への周知・実行状況の把握の実務
・セルフケア、ラインによるケアを推進するための労働者教育、管理監督者教育の計画・立案・実施・評価の実務
・事業場内のメンタルヘルスに関する相談窓口
・事業場外資源との連携の窓口
引用元:安全衛生キーワード>メンタルヘルス推進担当者|厚生労働省 職場のあんぜんサイト(http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo87_1.html)
労働災害における安全配慮義務違反について
安全配慮義務違反を起こしたことにより労働災害などが発生した際、企業は以下の責任が問われます。
<労働災害に問われる企業の責任>
・刑事上の責任:労働安全衛生法違反、業務上過失致死傷罪
・民事上の責任:不法行為責任や安全配慮義務違反による損害賠償
・行政上の責任:作業停止・使用停止等の行政処分
・補償上の責任:労働基準法及び労働者災害補償保険法による補償
・社会的な責任:企業の信用低下、存在基盤の喪失
引用元:労働災害の発生と企業の責任について|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/dl/081001-1b_0006.pdf)
かなり広い範囲での責任が問われますが、民事上の損害賠償や社会的な信用失墜は、企業活動の継続にもかなりのダメージとなりえます。
長時間労働による過労死や自殺による裁判の結果、企業側に支払いを命じた判例を見ても、賠償額は高額になる場合も少なくありません。
システムコンサルタント事件
•死因:過労死
•賠償額:3,200万円
•判決日:最高裁 2000年(平成12年)10月13日
電通過労自殺事件
•死因:過労自殺
•賠償額:1億6,800万円
•判決日:最高裁 2000年(平成12年)3月24日
このような状況を招かないよう、安全衛生委員会による活動とともに、メンタルヘルス対策も整えていくよう今一度自社の制度などを見直してみてはいかがでしょうか。
まとめ
安全配慮義務とメンタルヘルスについて、概要と会社で必要な対策を中心に解説しました。安全配慮義務は労働規約に明記していなくても問われるものであること、メンタルヘルス対策は重要であることがポイントです。
自社の安全衛生活動やメンタルヘルス対策について、再度確認して不足している部分はブラッシュアップするなど、検討をする際にご紹介した情報をお役立てください。
記事監修山本 務|やまもと社会保険労務士事務所