あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

陽だまりの部屋(SQ5)

2018年01月30日 | 世界樹の迷宮5関連










うちのギルドに関してはギルメン紹介の記事を御覧下さい。
千尋に関しては以前のSSをお読み頂ければ分かります。
それでも読んで下さる方は↓↓↓↓下へスクロールしてご覧下さい。

























































<陽だまりの部屋>



何て自分の部屋は寒いのだろう。ピアニーはいつもそう思っていた。



孤児だったピアニーは結構大きな街のスラムで少女時代を過ごした。
ある年、街の有力者が社会福祉に力を入れると沢山の孤児院を作った。
ピアニーは幸いだったのか数人の仲間とその数少ない孤児院に保護された。
しかしその孤児院は残酷な事に、表向きは子供を救済する孤児院だったが、裏ではリーパーという暗殺者を育てる組織だった。
職員達は皆、手練れのリーパーで、容赦無く少女達を暗殺者に鍛えた。
街の有力者の財源に暗殺請負稼業を追加したという仕組みだった。
両親に引き取られていったと言う名目で数多くの子供達が人知れず死んでいった。
しかし、ピアニーはペアを組むリズベットと共に恐ろしい程の才能を開花させた。
やがて職員達が二人に手を出せなくなり、二人は確固たる信念を持って仲間達と共に孤児院を壊滅させ、街の有力者の屋敷を襲い主を亡き者にしようとした。
そこをヴィクター率いる冒険者ギルド、ヴァランシェルド達に救われたのだ。
街の有力者は法の下、罰せられる事になり、ピアニー達リーパーは皆自由の身になった。
其処でピアニーとリズベットはヴィクターにスカウトされ、ヴァランシェルドの一員になる事を決めた。



ヴィクター達は世界樹の迷宮の攻略の為、麓の街に旅をしている途中だった。
ヴァランシェルドのメンバーは皆、世界樹の迷宮を踏破を夢見ている者ばかりだった。
初めはピンとこなかったピアニーとリズベットも皆の話を毎夜聴いている内に、すっかり世界樹の迷宮の虜になった。
ヴァランシェルドは旅の途中に各町の冒険者ギルドでクエストを請け負い、大金を手にしていた。
ヴィクターを始め手練れの冒険者が多く、陳腐な盗賊などは簡単に一網打尽に出来た。
賞金が弾んだある日、初めてピアニーとリズベットは自分の個室を分け与えられた。
ピアニーは胸を躍らせながら少額の給金で買った服をクローゼットに仕舞っては試着してを繰り返した。
そして思った。
この暖かい部屋、ヴァランシェルドこそが自分の居場所なのだ。
自分が血に塗れ、地を這い蹲ってまで生き延びたのは、この場所に辿り着く為だったからなのだ。
ヴィクターに背を預けられ信頼される事が増すにつれ、その執着は強くなっていった。



そんな時、彼が現れた。
外来者と呼ばれる異世界からの人間。

『しののめちひろ』。

彼はヴィクターに保護されると、彼の部屋に匿われた。
怯えるからとヴァランシェルドのメンバーに顔合わせが出来るくらいに回復するまで彼はヴィクターとジェラールに深層の令嬢のように大切に扱われた。
ピアニーは先ず其処からもう彼が気に喰わなかった。
何の努力もせず、まるで当然だと謂わんばかりにヴィクターの保護下に置かれた男。
顔合わせに連れて来られ、初めてその顔を観たピアニーは更に憤った。
『しののめちひろ』は、髪の色も瞳の色も、何の変哲もない『ただの男』だった。
か細い訳でも無く、小柄な訳でも無い、中肉中背の壮年期の男だった。
顔は恐ろしく整って居たけれど、嫌、一瞬見惚れたくらいに綺麗な顔をしていたけれど、やはり『ただの男』で、ヴィクターやヴァランシェルドのメンバーで護らなければならない程の存在に思えなかった。
殺されるならそれまでの人生なのだ。
生きたいのなら足掻けばいい。
自分達はそうやって生きて来たのだ。
解散後、冷淡にそう言い放つとリズベットはピアニーの顔を凝視すると哀しそうに呟いた。
彼女は彼を気に入ったメンバーの一人だった。

「あの人は、そういうのが普通じゃない世界から来たんだよ、ピア」

リズベットが言う、『しののめちひろ』が居た世界。
ピアニーは想像出来なかった。
望まずとも温かい食事と暖かい部屋を得られる世界。
そんな夢みたいな処に彼は暮らしていた。
外来者の事をピアニーは良く分からなかったが、ヴィクターが言うには異世界から何の前触れも無く、抗えない強い力が人を攫うのだと言う。
彼はその夢みたいな世界から、このアルカディア世界に浚われて来たと言うのだ。
そして外来者は特別な存在で、その血肉目当てに人攫い達が彼を狙っているのだと言う。
血肉目当て。
まるで家畜のようだと寒気がした。
ピアニーはその職種故、命じられるままその大振りの鎌で人を屠って来た。
しかし鎌で魂を浄化し、人として葬って来たのだ。
人を家畜のように肉の塊にした事は一度も無い。
彼は、自分が望む暖かい部屋からピアニーの寒い部屋へ浚われ閉じ込められた。
そう思えばしっくりした。
だが、結局ピアニーは彼を受け入れる事は出来なかった。そして事件は起こった。



あの日、初めてのミッション制覇の為に、主要なギルドメンバーは、迷宮探索に夜明け前から出掛けてしまっていた。
控えのギルドメンバー達も、アイテム物色の為に各々が通う店へ出掛けてしまっており、「しののめちひろ」の保護者はピアニーが命じられていた。
選りによって何故自分なのかと憤り部屋にこもる。
其処へあの男の声がした。
控えめな声掛けにピアニーはそっけなく応じ、諦めたような溜息と共に、彼は階下に降りていった。
何で自分がそんな邪険な扱いを彼にしてしまったのかと今では後悔している。
すると間も無くジェネッタの叫び声が響き渡り、咄嗟に武器を取り階段を駆け下りるものの、覆い被さるかのように撒かれた麻痺の香を吸い込んでしまう。
最後に見たのは二人の大男に味見と称して頬を舐らながらも「二人、殺す、駄目!」と必死に懇願する健気な「ちひろ」の姿。
ピアニーは呆然とする。
護られる存在で、何も出来ないくせに、二人に敵う筈もないのに、然も今から残酷な運命が待っていると言うのに、それでも「ちひろ」はジェネッタや自分の身を案じていたのだ。
そして長い探索の上で発見した際、あんなに冷酷な対応をした自分を、彼は庇い、護ろうとし、そして敵を倒し血塗れになりながらも、必死に自分を慰めようとした。
ピアニーは漸く気付いたのだ。
彼の周りが暖かいのでは無く、彼自身が、彼の心自身が温かいのだ。
彼の存在自体が皆の保護欲を引き出し、彼を護ろうとするのだ。
今なら分かる。
誰かを護ろうとする事は心を更に強くする。
失いたくないからこそ、強く在らねばと思うのだ。



迷宮探索から帰還し、今日もジェネッタの宿の扉を開ければ、宿主に請われパンを焼く彼が振り返る。

「おかえり。みんな。もろこしのパン、焼き立てだよ」

温かい笑顔に自然とピアニーの頬も緩む。
自室のドアを開ける。
もう寒いと思うことは無い。
何故なら階下には彼が待っている。
ピアニーの好きな杏の蜂蜜漬けをどの小鉢によそろうか迷っている姿が目に浮かぶ。
彼を護る。
それだけで心が温まるのだ。
まるで陽だまり。
それは彼女の魂が消えない限り、二度と失われることはない。



<了>



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ピアニーのベクトルは両極端なんです。
大っ嫌い→大大だ~い好き。






























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