あぽまに@らんだむ

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卵と蜂蜜とミルクの成分(SQ5)

2016年12月14日 | 世界樹の迷宮5関連



これは世界樹の迷宮5のSSです。
前回のSS、「きっと君を護るから(SQ5)」を御覧になった方が分かり易いかもしれません。
初見の方には不親切な内容になっていますので、閲覧には充分に注意して下さい。
大丈夫な方は、下へスクロールして御覧下さい。↓↓↓↓




















<卵と蜂蜜とミルクの成分>




「千尋ぉ~卵今日は三つにしてくれよぉ。腹減って死にそう~」

台所カウンターにだらしなく顎を乗せて、マスラオのユキフサが倒れ込むように丸椅子に座る。
後から同じマスラオのカガリホムラが溜息を吐きつつ隣に座る。
二人の対照的な耳と尻尾が頭上と背後で揺れる。
ユキフサは名前通り、雪のように真っ新な白い銀色、カガリホムラがその名を体現するかのように真紅の耳と尾を持つセリアン族だ。
最初は人攫いに襲われた経緯から、かなりセリアンとは接触するのを敬遠していた千尋だったが、ユキフサとカガリホムラを始めとしたセリアン達の過剰なまでの愛情表現に、千尋はすっかり絆されてしまった。
元々千尋自体、動物は大好きなのである。
怖がってばかりいるとセリアンのメンバー達が哀しくなる程に落ち込むので、怖がれなかったというのもある。
然も千尋は保護されている時はジェネッタの宿の台所を良く手伝っており、その料理の腕前はヴァランシェルドのギルドメンバーの胃袋をがっちりと掴まえてしまった。
その為、ギルドメンバー自体が千尋の料理を食べたがり、話す機会が多いに増えたのも理由の一つである。
片言しか話せなかった千尋も、毎朝言葉を交わす内に、ほぼ会話に困らない程度にアルカディア語が話せるようになっていた。
今朝も千尋は早起きして朝の鍛錬を済ませ、台所の手伝いをしている。
今日は卵を焼く係のようだった。
朝の鍛錬を終えた宿泊客達が入って来ては千尋に卵の数を注文している。
ジェネッタの宿は、裏でかなりの養鶏をしているが、今朝も卵は足りるだろうか。

「ユキ、まだ戻って来てない子達もいるから、両目焼きで勘弁してくれるか。その代わりベーコンを焼いて付けるよ。後、チーズも。ジェネッタ、いいだろう」

ジェネッタがパンを切り分けながら、笑顔で「ちひろさんがチーズまた作ってくれるならいいですよぉ~」と応えてくれる。
ユキフサの横でカガリホムラが頬を膨らます。

「ちひろがユキフサを甘やかすから、最近ユキフサ、動き悪いですよ。絶対太ってる」
「へぇ。じゃあ、今日も第一線で行けるようヴィックに言っておくな」
「そんな~千尋ぉぉ。~~~あ、でも千尋がプリン作ってくれるなら頑張るぜ」

動いた分食べてどうするんだとばかりに千尋が困った顔をするが、カガリホムラも「あ、作るならオレの分も!」とはしゃぐのを聴いて、微苦笑しながらも小さく頷いた。
ジェネッタが「おかぁさんと子供の会話ですねぇ」とからかうのに怒った振りをして、卵を二つ、フライパンの上に落とした。
実際は迷宮内で食べられる料理にプリンは無い。
千尋がアルカディアに来て、台所に立った際、何気に作って見せると、プリンはジェネッタの宿の看板メニューになってしまった。
獣肉や月リンゴ、マンドラジャガと、市場でカナリアやロビンに聴きながら集めたハーブでシチューを作った時には、他ギルドのメンバーの何人かから本気で求婚された。
パーティでアルカディア評議会を赴いた際、王子であるレムスに尊敬の眼差しで見られたのは街でも有名な話だ。
すんすんと鼻の鳴る音がして振り返ると、ハウンドのキトラと相棒のレインが立っていた。
フライパンを握ったままの千尋の背中に抱き着くようにキトラが頬を寄せる。

「ちぃ、いい匂い。甘くて”ちぃ”らしくて好きだ」

誰に対しても結構無口なキトラが、千尋にだけは妙に懐いている。
聴けば一番仲の良かった兄と雰囲気が似ているらしい。
そう言われてしまうと絆され易い千尋は無碍に出来なくなってしまう。
面倒を良く見ていた下の弟妹達を思い出してしまい、千尋は背中にキトラを抱き着かせたまま、ユキフサの朝食の卵を上手に焼き上げ、皿に乗せる。
ベーコンを取りに保管庫に行かなくてはならず、千尋は肩越しにキトラの名を呼ぶ。

「ほら、キトラも早く食べないとフェンサーやドラグーンの皆が戻って来てしまうぞ。ベーコン一緒に焼くから、席に着いて。レインはもう座って待ってるぞ」

柔らかい千尋の口調にキトラも反論はせずに大人しくその身を翻し、レインの待つカウンターの席に着席した。
ユキフサは頬杖を付いて、口許だけで笑む。
カガリホムラも首を廻しながら一部始終を目を細めて見ていた。
セリアン三人は独語のように視線だけはそのままに会話を始める。

「ホント、いい匂いするよな。ちひろは」
「卵と…樹海ハチミツと…、ミルク……だな」
「でも、食材の移り香だけじゃない」
「「「そうだな」」」

千尋自体が甘いお菓子のような匂いなのだ。
これはセリアン族の嗅覚だからこそ分かるのだろう。
外来者(ビジター)が発する誘うような甘美な香り。
それは酷く蠱惑的で、彼等から獣の本能を引き出そうとした。
でも、彼等は千尋がその身の上故に何度も攫われ、恐ろしい目に遭わされて来たか知っている。
その度に千尋がどれだけ怯え、泣かされて来たか知っているのだ。
二度とそんな目に遭わせない。
ヴァランシェルドのギルドメンバーは皆同じ想いだった。
どんな極上の食材で超が付く程の高級料理だろうと、千尋の香りには勝てないだろうが、自分の命と引き換えにしたって千尋は護る。
視線だけで三人は改めて誓い合う。
扉に付いた鐘が鳴り、新たにメンバーが帰って来たようだ。
口々に名を呼ばれ、何かとベーコンやチーズの保管庫から顔を出し千尋が笑う。
それだけで皆が幸せになる。

「お帰り。卵はスクランブル、目玉焼き、ゆで卵、だね。何個ずつにするんだい」

ジェネッタがそろ盤を弾きながら唸る。今日もジェネッタの宿一階の料亭は、宿泊客以外にも盛況だった。





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友人でお母さんみたいな香りの男性がいます。千尋はそんなイメージ。












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