バレンタインネタもあるんですけど、取り敢えずWDネタから。
腐的表現がありますので、閲覧には充分注意して下さい。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<いつか見た笑顔>
「カイン有難う…綺麗…」
色とりどりの硝子で細工された手鏡を受取ってリディアが満面の笑みで微笑んだ。
今日はホワイトデイ。
丁度一ヶ月前、バレンタインと称してリディアとローザに手作りのチョコ菓子を貰い、
癒されたカインは、少し前から自分なりに考え用意しておいたプレゼントを渡していた。
ローザにはレースの手袋。
リディアにはこの手鏡だ。
勿論幻獣界に手鏡などある筈も無く、リディアはその奇跡のような美しい細工に見惚れ、
カインが思っていた以上に感激した。
ローザに見せてくると手を振るリディアと別れ、カインは一人魔導船に戻って来た。
「……セシル、退け。通れないだろう」
魔導船の入口に通せん坊をする格好で立っていたセシルを睨み付ける。
ローザ達の話では既にセシルも二人にホワイトデイのお返しを送っていたらしい。
相変わらず抜かりの無い男である。
いつまで経っても退かないセシルにカインは早々に諦めて、
魔導船が停船しているバロン王国に戻る事にした。
今ではローザも城下町の実家に戻っているから、一緒にリディアもいるだろう。
リディアがいるのなら恐らくエッジもいる筈だ。
三人まとめて寝泊りさせて貰う手筈かもしれない。
既に解放されているバロン城には自分の部屋もある。
城で一人ゆっくりするのもいいかもしれない。
カインは踵を返した。
しかしその腕を掴まれる。
「カイン。僕からのお返しは受取ってくれないの?」
やんわりと、しかし放さない強さで掴まれる腕を振り解けなくて、カインは舌打ちした。
ゆっくりと振り返ると射るように睨み付ける。
顔の殆んどが隠れた竜の兜から冷たいアイスブルーの瞳が怒りに揺れる。
セシルはそれだけで背筋がぞくぞくする程興奮した。
思うままにならない愛人。
その魂までも縛り付けてしまいたい。
「お前にいつ俺がチョコをやった。寝言は寝て言え」
「当日ちゃんと貰ったじゃないか。チョコじゃなくて君だったけど」
振り返った格好で一瞬凍り付く竜騎士に聖騎士は容赦ない。
畳み掛けるように続けた。
「だから、お礼は勿論僕なんだけど、この場合、受取る場所は魔導船、君の部屋、
僕の部屋、初めて一緒に行った近くの洞窟で外、何処がいい?」
「おま…え…、何言っ…、…うぁっ!!」
噛み付かれるかのようなキスにカインは咄嗟に対処出来ない。
無遠慮に差し込まれてくる舌に翻弄され、息をしようと必死に喘ぎ、
抱き込めてくる腕を突っ撥ねようと抗う。
しかし筋力も技も聖騎士パラディンとなったセシルに敵う筈も無く、全ては徒労と終わった。
セシルは、ぜぇぜぇと荒い息を吐き生理的な涙を零す麗人から、その忌々しい兜を取り外す。
ドラゴンヘルムはからからと音を立てて魔導船の床を転がった。
深い碧の兜を見下ろしカインが唇を噛む。
悔しかった。
男として戦士として全て自分を凌駕するセシル。
自分が今迄して来た裏切りは、勿論許される事ではない。
だからと言って身体も心も好きにされるのは我慢ならなかった。
確かにセシルやローザを助ける為、自分は此処まで来た。
でもこんな事をする為に着いて来た筈ではなかった。
抱き締めた腕の中、何も言わないカインを不審に思ってセシルは顔を覗き込む。
そして目を見張った。あの負けず嫌いのカインが大粒の涙を瞳に浮かべて泣いているのだ。
セシルに泣いている顔を見られ、羞恥にカインは素早く顔を背ける。
しかしその頬に手を添え、セシルはカインを自分に向かせた。
「泣かせちゃって…ごめん…」
「煩い。見るな」
視線を逸らしぽろぽろと涙を流し続けるカインにセシルは観念した。
幾ら欲しくても心ごと手に入れ無ければ意味が無いのだ。
そしてカインの自分への想いも自ら気付いて貰わねば仕方が無い。
カインの両頬に手を添え、セシルはゆっくりと顔を近付ける。
キスされると恐怖に目を瞑るカインに微苦笑し、コツンと額だけ合わせる。
この思いが届きますようにと祈るかのように無言のセシルに、カインはそっと目を開けた。
長い銀にも見える白金の睫毛、薔薇色の頬、艶やかな唇。
セシルは女性であれば、即恋に堕ちてしまう程の容姿をしている。
それなのに、ローザや女官達からの愛を全て投げ打ってまで自分を欲しいと言う。
理解出来なかった。
何故自分なのか。
何故強引に自分を奪おうとまでするのか。
「…お前は莫迦だ」
「…うん」
「…大莫迦だ」
「…そうだね」
「世界最強の莫迦だ」
「……そんなに莫迦莫迦言わないでくれよ。酷いなぁ…」
額を離し拗ねたようにセシルが口を尖らせる。
それは幼い頃から知っている昔のままのセシルでカインは何故か安心した。
そして少し気付いた事があった。
悔しい訳でも哀しい訳でもない。
もしかして自分を好きなど言うセシルが自分の知っているセシルと違う気がして怖かったのではないか。
拗ねるセシルの鼻を小さく摘んでやるとカインは涙を拭い、少しだけ微笑んだ。
滅多にないカインの微笑みにセシルは見惚れ、複雑そうに微苦笑した。
そしておずおずと囁く。
「やっぱり受取ってくれない?」
カインは暫くの間考え、セシルを散々焦らした後、そっと耳許で囁いた。
その答えを聞いた時のセシルの笑顔にカインは満足気に溜息を吐いた。
それは幼い頃、初めてカインがセシルの誘いに頷いた時と同じ笑顔だったからだ。
<了>
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ツンデレカイン。