あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

セピア色の憂鬱(茅賢)

2020年03月21日 | 図書室のネヴァジスタ関連

 

これは「図書室のネヴァジスタ」という同人サークルのゲームのSSです。

多数の登場人物が出て来ますので、詳細はwiki先生か、

ゲームの紹介https://booth.pm/ja/items/1258でご確認下さい。

少しでも興味を持って下さった方はプレイしてみて下さい。

下記のSSはネタバレでもあるので、ご注意下さい。大丈夫な方は下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

<セピア色の憂鬱>


賢太郎のアパートの部屋に、茅は1人で遊びに来て居た。
以前約束したアルバムを見せてくれると言われ幽霊棟から態々来たのだ。
週末だった為、幽霊棟に出向くと言うのを、茅はやんわりと断って来た。
そしてきっぱりと「僕が行きます」と珍しく引かなかったのだ。
自分も行くと駄々を捏ねる清史郎に、賢太郎は泊めるのは一人が限度だと言い聞かせ、約束通り茅を招待したのだ。
冠婚葬祭以外は二度と逢わないだろうと、アルバムの殆どは実弟である清史郎と共に実母へ預けてしまった。
その為、賢太郎の持つアルバムは一冊のみだった。
まだ両親が仲が良かった頃の家族旅行のアルバム。
其処に清史郎の姿は無い。
両親と賢太郎の三人だけのアルバム。
だから清史郎には見せられなかった。
そんな幸せな家族の写真ばかりを清史郎には見て欲しく無かったのだ。
清史郎が生まれる少し前から両親は仲違いが多くなった。
其処へ生まれた清史郎。
母は家に不在がちになり、残された乳児を幼い賢太郎が1人で育てた。
清史郎には賢太郎が全てだったが、親の愛情を知らないで育った清史郎を賢太郎はいつも不憫に思っていた。
幼かった頃、賢太郎は両親に愛されて育った。
清史郎にはその記憶さえ無いのだ。
小学生の低学年の頃から、賢太郎も清史郎が生まれるまで、ずっと1人だったが、
清史郎は生まれた時から、ずっと家族は賢太郎1人なのだ。
そのアルバムを茅に差し出す。茅は嬉しそうにそれを受け取った。


色褪せた写真の中で、幼い賢太郎がこちらを見て笑っている。
茅のアルバムを見詰める瞳が、賢太郎を探して優しく彷徨う。
柔らかな目許が賢太郎の傷付いた心を癒した。
以前の茅は、無表情な事が多く、そうで無ければ偽りの微笑みを浮かべて居たり、
虚ろな瞳をしていたり、見ていていつも不安になった。
その茅が兄、義之との確執を経て、精神的に落ち着きを取り戻しつつある。
時折、記憶が飛んでしまっても、久保谷や白峰に偽る事無く告白し、
常に支えて貰っているようだった。
元々弟気質の茅は、兄気質である白峰や気配りの出来る久保谷に自然と甘える事が出来た。
アルバムのページを捲り、茅が写真の中の賢太郎を探す。
どの賢太郎も母親や父親に囲まれて幸せそうに笑っている。
その笑顔を見ている所為か、茅も常に微笑んでいた。
釣竿からぶら下る魚を見せて幼い賢太郎が得意げに笑っている。
その写真にそっと指を伸ばし、茅は愛おしそうにそっと撫でた。
そんな茅を見てしまい、賢太郎の頬が仄かに朱を帯びる。

「晃弘、幸せか?」

聞けば、壊れてしまいそうな不安に心が揺れる。
だから賢太郎は何も言わずに口を噤んだ。
何も言わずに茅の横に座り、その肩にそっと凭れた。
茅の手が止まり、驚いたように間近な体温に声を失う。
賢太郎はただ黙って茅の横で目を閉じていた。
触れている腕から賢太郎の体温が伝わって来る。
それはアルバムを見ていた時の茅の心のように、包み込むような温かさで全てを満たしていく。

「津久居さん」

甘いバリトンの声で、茅は賢太郎の名を呼んだ。
でも、聴こえない振りをして、賢太郎は茅に凭れ掛かったまま、目を閉じている。
暫く返事を待って居たが無駄だと知り、茅はアルバムを見る事に集中する事にした。

「何でこんなものを見たがるんだ。何も面白い事なんて無いぞ」

賢太郎はアルバムを渡す際、茅に予めそう忠告した。
茅は反論したかったが、賢太郎にはきっと理解出来ないだろうと曖昧に微笑んだだけで何も言わなかった。
その賢太郎が身体を密着させて自分に甘えている。
それだけで茅は幸せになれた。
好きな人の事は何でも知りたい。
それは当たり前の事だよ。
和泉はそう言った。
茅の心を救おうと、助けようと、賢太郎は身体と心の全てを投げ打ってくれた。
今度は自分の番だと茅は思う。
賢太郎は誰にも頼ろうとしない。
また、人に寄り掛かる事が出来ない。
久保谷はそう言った。
その原因を知りたいと思った。
彼の過去。
彼の幼い頃。
何でも知りたいと思った。
アルバムを見たいと思ったのはその為だ。
願い事は幾つもある。
でも、その中で賢太郎に頼られる大人になるということが一番の目標になっていた。
でも言葉には出さない。
本人にも決して言ってはいけない。
まだ全てが早いのだ。
凭れ掛かる賢太郎の口許が嬉しそうに微笑んでいるのを確認し、茅はアルバムをゆっくりと眺め続ける。
春の月が天を射るように掛かり、週末の夜はゆっくりと更けて行った。

<了>

----------------------------------------------------------------------

やっぱ茅賢が好きですね。

 

 

 

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ハーレイ・クインの華麗なる... | トップ | 魔石坑のケアル攻防(FF12バ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

図書室のネヴァジスタ関連」カテゴリの最新記事