あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

可愛がっても事足りない(SQ5)

2016年11月06日 | 世界樹の迷宮5関連




一応、説明じみた内容も入れてますが、SQ5をご存知でない方には不親切なお話かと思います。
愛情であってBL的な要素は入れてないつもりです。家族愛的な感じのつもりです。
以上、大丈夫かなと思う方のみ下へスクロールしてご覧下さい。




























<可愛がっても事足りない>


「たっだいま~!」

元気なリズベットの声がジェネッタの宿の一階に響き渡る。
現在第三層攻略中の第一線パーティは日が暮れるまでには街に戻って来る。
もうそんな時間になるのかと千尋は窓の外に視線を移す。
確かにオレンジ色の太陽が今まさに沈もうとしていた。
此処は台所。ジェネッタが悲痛な表情で千尋を凝視していた。

「あ~!またジェネッタってば「ちひろ」に手伝わせてる!私達お客さまなんだからねぇぇ!」

二人のリーパーの片割れ、ピアニーがオレンジと薄ピンク色のツインテールを揺らして頬を膨らませた。
実際昼過ぎ、千尋がジェネッタに宿泊客が増えてパンを焼く人手が足りないと泣き付かれたのは事実だ。
千尋も千尋で、午前中に武具や武器の手入れとヴィクターに頼まれていたアイテムの買い出しを済ませ、昼食を摂りながら暇を持て余していたので、安易に了解してしまったのだから自業自得だとも言える。
悪戯が見付かってしまった幼子のように自嘲する30代の男に、10代のリーパー二人は腰に手を当て、まるで双子だと言っても過言ではない位に声を揃えて、説教を始めた。
可愛く顔の前で人差し指をふりふりするのも忘れない。
これも愛故と分かっているだけに笑っちゃいけないと思いつつも、つい口角が上がる。

「だ~か~ら~千尋さんも引き受けないの!明日はまた三層行くんだから!疲れちゃうでしょ!」

「ほら、笑うな。もっと怒られるぞ?」

背後から女性なら腰が砕ける程のいいバリトンの声で囁かれ、背中が震えてしまうのを必死に堪える。
千尋は、紅潮する頬を自覚しながら、首の後ろを押さえ勢い良く振り返る。
其処には案の定、ドラクーンであり、このギルド、ヴァランシェルドのギルドマスターであるヴィクターが口許に僅かな笑みを浮かべ立っていた。
傍らには痩身のウォーロック、シェラザードも居る。
世界樹の迷宮攻略組第一線のパーティメンバー達がアリアドネの糸で帰還し、リズベット以外のメンバーもジェネッタの宿に戻って来ていた。
一同、過度の緊張から解放され、ほっとした表情を見せている。

「わっ…!このパンの山、全部千尋さんが焼かれたんですか?お疲れでしょう。私、キュアハーブの在庫有りますよ!回復しますからしゃがんで下さい」

身長の高いヴィクターとシェラザードの下からハーバリストのカナリアが籠から必死にキュアハーブを出そうとしていた。
タンポポのような黄色い髪がふわふわ揺れる。
カナリアはブラニーの少女である。
ブラニーはアルカディアに多い四種族の中の一つで、大草原が故郷の種族である。
小柄で人懐っこく、自然を愛する為、自然の力や薬学に長けている。
その為、薬草の知識で味方を癒し、敵を弱らせるハーバリストや、「巫子」としての神秘の力で味方を強化し、傷を癒すシャーマンなどの職に就く者が多い。
カナリアはロビンという二卵性双生児の弟がいて、彼もまた同じヴァランシェルドのメンバーでハーバリストの職に就いている。
職業柄でもあるが、その優しい性格故、いつも人を気に掛けている。
千尋を見上げる瞳は愛情深く、蜂蜜のようにとろりと甘い色をしていた。

「あ~カナ。これくらいの量はいつも作ってたからダイジョブだ。お前等の方が大変だっただろう。三層は怖いからな。さっさと装備外して着替えて来い。夕飯の用意をしておくから」

「だから…千尋は給仕しなくていい。ご飯の用意くらいなら僕が手伝う」

仔牛程もある水色狼のレインと共に傍らから現れたハウンドの少年キトラは、お皿を取ろうとする千尋から自然に皿を奪った。
キトラは紫がかった不思議な月色の髪の毛をしていて、金と水色の混じり合った眼をしている。
じっと相手を見るのは癖なのだが、その光に因って色を変える不思議な瞳に見詰められると、有無も言えず従ってしまいそうになる。
一瞬、両親を亡くした頃の末の弟を思い出し、千尋は表情を硬くする。
しかし、それも一瞬の事で、マスラオのユキフサに今晩のおかずを聴かれ一品ずつ説明し始めた。
その様子をヴィクターはカウンターに寄り掛かり見ていた。その視線はいつもより柔らかい。

「ヴィック、お父さんの眼差しになってるよ」

「放っておいてくれ。9歳も年上の子供を育てた覚えはない」

「賊から助けて、拾って、言葉を教えて、愛情を持って冒険者にまで育てただろう」

「…お前が私の立場でも、同じ事をした」

「責任は果たすとは思うけど、君のように愛情を持ってはどうかな」

シェラザードはルナリアの青年である。ルナリアはアルカディアに多い四種族の中の一つで、北方の雪国シドニアの出身が多い。
知性が四種族のなか最も高く、魔法職の適性が高い為、古代魔法の知識に長け属性攻撃で敵を殲滅するウォーロックや、死霊を召喚し使役することで様々な仕事をこなす事が出来るネクロマンサーの職に就く者が多い。
シェラザードはウォーロックでヴァランシェルドのギルドマスター、ヴィクターの補佐をしている。
ギルドを起ち上げた頃からの馴染みの為、言う事が容赦無い。
寧ろ自重しろとヴィクターは常々思う。
例え一つとは言え、年上である事は変わりはないと、殊更年上を強調するのも止めて欲しい。
一応、ヴィクターはジェラールの兄で、千尋の保護者なのだ。

「…ちぃが幸せなら、…私はそれでいい」

大皿に盛ったパンと、同じく大皿に盛られた沢山のおかずをカウンターに乗せて幸せそうに千尋が笑う。
34歳にもなるいいおじさんの癖に、歯を見せて笑う顔は、成人前の少年のようだ。
半年程前、異界からアルカディアに来た頃の千尋は、不安と恐怖に怯え、外来者(ビジター)であるが故に人攫い達に狙われ、まるで籠の鳥のように生きていた。
その千尋が自由に街を歩き、世界樹の迷宮に挑み、皆に囲まれ、笑ったり、驚いたり、怒ったり、くるくると表情を変える。
シェラザードはそんな千尋を見詰めるヴィクターに片眉だけを器用に上げて小さく笑みを浮かべた。
千尋を見詰めるヴィクターもまた幸せそうだった。
ギルドマスターとして常に気を張っている癖に千尋に関してだけは実弟のジェラールと変わらぬ程にヴィクターは甘くなるのだ。
千尋を中心に早い夕食が始まる。
他のギルドの面々も次々と階下に降りて来て、所々乾杯の声が上がる。
楽しい夕食の時間は始まったばかりだ。


<了>

-----------------------------------------------

ピアニーはギルドメンバーのなかで千尋に対してかなり過保護な人の一人です。
千尋が仲間になる話はいずれ。













コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヘンリーとコリンに首ったけ | トップ | 溢れる愛と祝福を(SQ5) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

世界樹の迷宮5関連」カテゴリの最新記事