シランもバラも盛りを過ぎた庭に、今日はドクダミが咲いていた。
ドクダミが咲いているのを見ると、井伏鱒二の小説「黒い雨」の箱に描かれていた絵を思い出す。
色はほとんど無く、一本のドクダミに一輪花が咲いているだけの絵だったと思う。
その本は父のもので、小さい頃家にあった。
私はその本を読んだことがない。めくりもしなかった。
ただその表紙の絵が目に焼き付いた。線が効いた簡潔な表現だった。
題名は、原爆の後の黒い雨のことだと思っている。
原爆の後、爆心地では百年間は草木も生えないだろうと言われていたらしいが、まずドクダミが生えてきたのだと聞いている。
その絵のドクダミはそんなことから題材に選ばれたと勝手に思っている。
関係があるか分からないが、東日本大震災の放射能騒ぎの後、家の庭にはドクダミが沢山生えてきた。
その時には、あっという間に庭半分くらいを覆っていた。
原爆が落とされた時、父は結核の療養ため実家の山口県に戻っていた。
そこからもキノコ雲が見えたそうだ。
広島市内の工場で働いていた同級生たちのうち、沢山の方が亡くなったと言っていた。
父はすぐに広島に入ったと言っていた。その時のことをいろいろ話していたのだが忘れてしまった。
ひとつだけ、バイクに跨ったまま亡くなっていた人のこと は、父の身振りと共に覚えている。
そういえば大人になってから、「黒い雨」の箱の絵の作者が美大の時の主任教授でいらしたと、ある時気がついた。
その先生は広島の福山の御出身でいらしたから、私の覚え間違いではないと思っている。
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