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年末落語 ~年賀状~

2011-12-01 18:48:31 | 日記
もうすぐ年末、だれしもばたばた、忙しい時期がやってまいりました。

こんにちは。いつもおなじみ、くまのサンタです。

みなさん年末の一仕事はすすんでいますか?大掃除におせち料理、年賀状に里帰り、まだどれにも手がついていないという人もいるのではないでしょうか?かくいう私も最近年賀状を1通書き上げたばかり。あまりのんきにもしていられませんね。



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「あー、忙しい、忙しい。もう25日やっちゅうのに、何にも進んどらん。年賀状だけでも書き上げんとやけど、こうも毎年、なにを書こうか」


「お父ちゃん、うるさい。年賀状なんてもんはな、゛明けましておめでとう″と ゛今年もよろしくお願いします″ってことさえ書いとったらあとは絵で埋めといたらええねん」


「そうはいうけどな、里子はまだ小学生やしそれでええかもしれへんけど、俺は会社にも出さなあかんねん。礼儀っちゅうて、そんな手抜きなもん出されへんねん」


「父ちゃん、小学生をバカにしたらあかんわ。うちらにはうちらのつながりっちゅうもんがあってな、クラスの子全員に出さなあかんねん。あの子には出したのにあの子には出さなんだいうたら、後でけんかになるやろ。それが礼儀っちゅうもんねん。クラス全員に手のこんだもんなんか出されへんわ」


「そらそうかもしれんけど、会社には上とのつながりもあって、里子のけんかとは違うねんで」

「父ちゃん、そうはいうけどな、うち、知ってんねんで。そういうて毎年かけへんでお母ちゃんに書いてもうてるやろ」

「なんで知ってんねん」

「母ちゃんがぼやいとったで。うちが寝たあと父ちゃんがごねて困るって。一通もかけんまま母ちゃんに頼むより、適当でも父ちゃんが書いたほうがましやとうちは思うんやけどなあ」

 お父さん、完敗でした。

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(里子の言うとおり、適当でも出したほうがええんやろか。でも、もう25日やしなあ、適当に、適当に。ええっと・・・)


 -拝啓、曽根崎部長様、明けましておめでとうございます。-

(こら、ちょっとへんやな)

 -明けましておめでとうございます。昨年度はお世話になりました-

(こうしてしまうと、続けようがないんだ。だったらいっそ思い切って・・・)

 -A HAPPY NEW EYAER! 部長、元気~? -

(…、はは、こんなこと書いたら笑いものどころか、へたしたらクビ)


そうこう考えているうちに、お父さん、里子の書いた年賀状が気になってきました。

(いったいなんて書いているんだろう)

見てみたいって思ったんです。思い切って里子の勉強部屋をのぞいてみました。

「里子~、ちょっといいか~?っていないのか。年賀状、年賀状っと、あった。」

引き出しの中に1通だけ、書き損じの年賀状が入っていました。でも、どうやら失敗したのは差出しのようでした。

(ええっと・・・)

 

 明けましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。私は小学五年生になりました。苦手だった算数も、去年新しく赴任してきた先生が面白くって、毎日楽しく授業を受けています。その授業を受けるために毎日うがいと手洗いを心がけて、ご飯もちゃんと食べていたら、風邪ひとつひかずに1年すごせました。まだまだ肌寒い日が続いています。おばあちゃんもお体に気をつけて元気でお過ごしください。

                                   里子



 お父さんは思わず声をあげそうになってしまいました。

(うまい。うますぎる。そうか、こんな風に自分の身の上話を交えたらいいのか)

お父さんはさっそく、1年をふりかえりながら年賀状を書き始めました。


~        ~            ~         ~       

            新年、初出社して


「みなさん、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

「さて、きょうはみんなに知らせたいことがある。竹中君は毎年私に年賀状を送ってきてくれているのだが、今年の年賀状はとくに素晴らしかった。これから仕事を行う上で、みんなの役にも立つと思うので、竹中君、読んでみてくれないか?」

 まさか、朝礼で取り上げられるとは夢にも思っていなかったお父さんは年賀状を手渡す部長の顔をまじまじと見つめてしまいました。部長はにこにことうなずいています。お父さんは顔を赤らめながらこほんと咳払いをひとつしました。

「えー、明けましておめでとうございます。曽根崎部長には昨年もお世話になりました。私も夢の国商事に入社して20年になり、仕事も波に乗ってまいりました。しかし、今でも新たに気づかされることは多く、昨年の10月にもお客様のクレーム対応のために青田へ行ってまいりました。お客様の言い分は、冬場寒いからストーブを付けるのに、点火に30秒も待たなければならないのはおかしい。もっと早くつくものを用意しろというものでした。そのストーブにも、5秒点火のボタンはついているものの、そのボタンを押すだけで点火時間が短縮されること、コンセントを抜くと設定がリセットされることをご存じなかったようでした。そこにある機能を知らずに使えなかったお客様のお怒りはごもっともで、私たちを含めた若い世代だけでなく、機械操作がままならないご高齢世代の方にも的確に伝えていけるようまずは私たちの自社製品に対する理解を深めていかなければならないと思っております。まだまだ未熟な私ですが、今後ともよろしくお願い申し上げます。

                                 竹中弘之


   ※話の都合上、長文、年賀状に入りきらないであろう面はご容赦ください。


「素晴らしいねえ。ここにいるみんなが竹中君を見習って、今の自分に何が足りないのか考えて仕事をしなければいけない。竹中君も、その気もちを忘れないように大切にしてくれよ」

「はい」

 拍手かっさいでした。

「竹中さんって、文章書くの、うまいんですねえ」

「ぼくも竹中さんのようにこれからがんばります」

 何人にも言われました。内心、ゴマすりだと言われるのではと恐れていたものの、それもなく、その日一日、お父さんの顔は赤くほてっていました。


~         ~               ~        ~
                家に帰って


「いやー、きょうはよかったよ。里子の年賀状見て書いたら、会社の人に褒められちゃってさ、助かったよ」

「私の文章もそれなりってことか。よかったじゃん」

「それで里子、お前にお願いがあるんだ」

「なに?」

「今度、暑中見舞いも見せてくれ」










*追記
なお、この落語に登場する部長の行動(人前で私物を読ませる行為)が場合によっては相手を精神的に追い詰める危険性をはらんでいることは承知の上で書いています。ここは架空の部長の人格と捉え、ご了承ください。