ブッちゃんへ
ブッちゃんを迎える前のこと
会社の近くにあるペットショップに
仕事帰りに立ち寄っては
ショーケースのワンちゃん達を眺めていた時期があった。
その頃、トムとみかちゃんは離れて暮らしていて
みかちゃんの仕事が忙しい時期
長時間留守にする時なんかに
トムは家にお泊まりに来る。
家に帰るとトムがいる
嬉しくて一分一秒でも早く家に帰りたかった。
でもね。
トムはまた自分のお家に帰って行く。
でね。
ペットショップ。
色んな子がいてね
トムと同じヨーキーの赤ちゃんもいてね。
可愛いの。
ショーケースの一番下段の端に
他の子より少し大きなウエスティの子がいた。
小さな子たちがぎこちない動きで
一人遊びをしている様子は可愛らしくて
ずっと見ていても飽きない。
そんな中で
その子は丸まって眠っているだけ。
ぴくりとも動かない。
３０，０００円
売れ残って大きくなり過ぎたのだろう
その子に付いていた値段。
赤ちゃんの頃にお母さんから引き離されて
知らないところに連れてこられて
いつから
この子はガラスの檻の中にいたのか。
無性に腹が立ってきた。
ガラスの向こうにいるその子が
不憫に思えてならなかった。
まだ幼いのに
全てを理解していて
そして
全てを諦めている。
その子の全身からそんな感情が
伝わってくるような気がして
切なくてやりきれなくて
悲しい。
家に帰って
その日トムを連れて家に来ていたみかちゃんに
その子のことを話すと
誕生日プレゼントに買ってあげようかと言ってくれた。
うーん‥。いいわ‥。
何日か経って
ペットショップに行った。
透明の箱の中にその子の姿はなかった。
昨日までその子がいた場所は
前から何もいなかったように空っぽだった。
誰かに買われていったのだろうか。
３０，０００円なら
即決出来ない金額じゃない。
それとも
３０，０００円でも売れないからと
何処かへやられたのだろうか。
ブッちゃんと出逢う前のお話だけど
寝ている姿しか見たことのない
あの子のことを
ふとした時に思い出す。
どこかのお家の子になって
幸せに暮らしているだろうか。
後にそのペットショップは
生体販売をやめて
グッズやフード、トリミングだけの
お店になった。
それから何年か後
ブッちゃんを迎えると決めて
保護主さんに、かかった医療費などの費用負担について訊ねると
空輸の際の実費のみでよいと言われた。
ブッちゃんの飛行機代
それとは別に
あの子に付けられていた値段と同じ金額を包んだ。
保護されている子達のワクチン代の足しにはなるだろうか。
私は３０，０００円でブッちゃんを
買ったわけじゃない。
悲しいね‥ブッちゃん。
あれから
犬や猫を売っているペットショップへは行かない。
悲しい場所には近寄りたくもない。
