ブッちゃんへ
もう何も口にしない
座薬もうまく入らない
意識混濁
断続的に手足が空を掻く
時々甲高い声で鳴く
抱くと鳴き止んだ
夜間病院へ連れて行こうか、迷う。
たぶん、ひと月前のようにはいかない
もう戻ってはこないだろう、と思った。
それならば、一晩中こうしていよう。
朝までもてば、病院へ行こう。
大丈夫、呼吸してる。
８時４５分には開くだろう。
体を毛布で包み込むようにして、ベッドごと抱えて家を出た。
入口から少し離れたところで待っていると、庭の方に看護師さんが出て来るのが見えた。
ネ子ちゃんがワンワン、ワンワン、ワンワン、吠えた。
待っている私たちに気付いて、
おはようございます、まりちゃんさん
もうちょっとだけ待ってくださいね
そう言って中へ入っていった。
待っている時間は、えらく長く感じる。
ネ子ちゃんが私に向かってワンワンと２回鳴いた。
１.２キロのネ子ちゃんの体は更に軽くなった。
そう。
お母さんのところへ帰るんやね。
頑張ったね。
もう苦しくないね。
看護師さんが呼びに来た。
もう亡くなってると思います
その場から動かずにそう言うと、
看護師さんは、えっ、と声をあげたきり、あとは無言のまま、中へ入るよう促した。
診察室のドアが開くと、おはようございます、挨拶をする先生の明るい顔があった。
看護師さんが先生の傍へ駆け寄って耳打ちする。
先生の表情が厳しくなる。
診察台に寝かせたネ子ちゃんに聴診器を当てる。
あかんわ。
もう、心臓動いてないわ。
ネ子ちゃんをキレイにして頂いている間に、
会社に遅刻する旨、連絡を入れる。
妹、ネ子ちゃんの伯父さん、共通の知り合いに
ショートメールを送信した。
午前８時４３分
ネ子ちゃん永眠致しました。
キレイになって帰ってきたネ子ちゃんを病院から頂いてきた段ボールの棺に納める気には、まだなれない。
ベッドに寝かせたままにした。
病院へ行く前と同じ。
一睡もせず出社したのに
その日は、全然眠くなかった。
ねえ、ブッちゃん。
ネ子ちゃんの月命日なんだけど、
今日はすごく嬉しくて、よく眠れそうだよ。
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