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2011年4月6日 記
1988年 フランスとアルゼンチン合作
「Sur スールその先は…愛」 タンゴ満載の映画♪
◎私は映画の感想を書いています
これからご覧になる方は、絶対に鑑賞後にお読み下さいね◎
⇒あらすじや解説は一番最後に、プロの方が書いた文を転載させて頂きました
このブログは、私の思い入れたっぷりの、趣味に偏った感想です。
この映画で、フェルナンド・E・ソラナスはカンヌ国際映画祭監督賞を受賞しました。
音楽はあの、アストル・ピアソラが担当。
政治的な背景、あらすじの奥に
深く描かれているであろう、秘められた部分は
私にはまだまだ...
はっきりと理解しきれていないと思います
引き裂かれた人々、奪われた命
否定され、処分される言葉たち...
この弾圧された恐ろしい政治不安の闇のなか
愛だけが、さながら黒曜石のような輝きをもって
激しく求めあい、切ない叫びをあげている
そう感じた映画でした
引き裂かれた愛、取ゆり戻したい愛、寂しさに身を寄せ合う愛
裏切りの愛、様々な形の愛が交差します
そして、暗く抑圧された闇を得てこそ
タンゴはさらに強く輝きを増し、
悲しみと苦しみを得て、華やかに花開く
それに気がついた映画でした。
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私がこの映画を観たのは
まだブエノスアイレスの闇や街並を知らない時でした。
漆黒の闇の中、死者の声が聞こえ、こだまが響く
「Sur」の世界を初めて観たとき
本当に不思議な感覚に包まれました。
そして、すぐにタンゴを思い出しました。
タンゴって、ブエノスアイレスってなんだろう?・・・
その答えは、
実際にブエノスアイレスを訪ねた時
街が教えてくれました
タンゴが好きな私の思いこみなのかもしれない。
でもたしかにこの街には、すでに亡くなった
タンゴの偉人、カルロス・ガルデル、メルセデス・シモ-ネ
オスバルト・プグリエーセ、アニバル・トロイロ、カルロス・ディサルリ・・・
詩人のオメロ・マンシ、ホルへ・ルイス・ボルヘス・・・
いにしえの人々が、今も街のカフェでお茶を飲み
駅の雑踏の中、風の中、闇の中で生きていて
歌い、演奏し、朗誦し、話し、踊っている・・・
そんな感覚を持ちました。
夜のブエノスアイレスを歩きながら、
映画の数々のシーンを思いだしていました。
この街の漆黒の夜は、芳しい。
この香りは、夜の闇と街のこだま、
そして古い時代の香りか
おぼろにゆれる、濃黄の街灯、光る黒い石畳
深夜の散歩でたどり着いたのは、
映画「ブエノス・アイレス」で有名になったBar Sur。
石造りの古い建物と、路面電車の跡
霧の中に浮かぶ影 鉄格子の奥に映る顔
街路樹が揺れ 痩せた野良犬が歩く
さて、本編です♪
ネストル・マルコーニ(バンドネオン奏者)と
ロベルト・ゴジェネチェ(タンゴ歌手)が登場する冒頭の場面
風が鳴り、汽車が去ると
楽団が現れる…
バンドネオンの印象的なフレーズが響き渡る
濡れたような震える音が胸を打つ
ギターの爪弾き、バイオリンが切なく奏で
コントラバスの低い鼓動が静かに鳴り響く…
闇の中から、あのゴチェネチェの声が聴こえてきます
「Sur」アニバル・トロイロとオメロ・マンシの曲です。
San Juan y Boedo antigua, y todo el cielo,
Pompeya y m醇@s all醇@ la inundaci醇pn.
Tu melena de novia en el recuerdo
y tu nombre flotando en el adi醇ps.
《懐かしきサン・ファンとボエドの角、
広がる空 ポンページャ区 その先の洪水
愛しい人の前髪は 思い出の中に
さよならに消えた きみの名よ…》
1983年、軍事独裁政権が終わる頃
政治犯として5年間投獄されたフロレアルが釈放された
妻のロシと息子の待つ家へ帰るため
夜の街を彷徨い歩くフロレアル
闇の中に、死んだはずの友人たちを見る
過去の幻、男や女、年老いた父と母
フロレアルは、
投獄中に友人と不貞を起こした妻のロシへの思いを抱え
どこまでも深い闇を、虚構と現実のはざまを、彷徨い続ける
…この5年間の記憶の中を彷徨う。
収容所の壁、彼の瞳を覗きこみ腕の中に眠った、刹那の恋人マリア
・妻のロシが、逮捕された夫を捜し歩くシーンは
イタリア映画「ひまわり」のソフィア・ローレンを思い出しました
同時にビクトル・ハラの名曲「アマンダの想い出」も
この幻想的な夜
吹きさらす風の中、幻のように現れる楽団は
夜の路上でタンゴを演奏する
「Sur」「Maria」「Naranjo en flor」「Garuda」
「Cristal」「La ultima curda」「Vuelvo al sur」・・・
珠玉のタンゴ、名曲の数々が胸を打つ
マルコーニがソロで弾きはじめる
「Vuelvo al sur ~南へ~」
(音はピアソラ)
Vuelvo al Sur, como se vuelve siempre al amor,
vuelvo a vos, con mi deseo, con mi temor.
そしてゴチェネチェが、ほほ笑む
ああ、夢のよう (・・・映画を観てるのに!)
ゴチェネチェがマルコーニを「ゴルド」というが
マルコーニにトロイロのイメージを重ねているようだ
(「ゴルド」は「太っちょ」の意味でトロイロの愛称)
/Bs.Asでマルコーニのライブに行きました
カウンターに座ってラフに話しているマルコーニさんは、
なんとなく違う次元の空気を吸って生きているような
そんな不思議なオーラに包まれているよう感じでした/
Surとは、方角の南の意味。
タンゴの曲の「Sur」は自分の故郷をさしています
愛する南よ、愛しい故郷よという意味合い
また、この映画の中で
妻のロシが強制収容所にいるフロレアルに会うため
パタゴニア地方へ向かうシーンがありますが
これは故郷ではなく南の収容所へ向かっています
そしてまさに彼が帰ろうとしている
妻と子供が待つ街は、南の地域
愛の葛藤を抱えつつ
求めるはあなたの温もりよ
悲しみの涙も、幸せな時も
すべて知っている我が愛の南へ...
南へ、愛する人がいる南へ
私は愛する故郷へと帰ってゆく
Vuelvo al sur …
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「Sur スール、その先は…愛」
<解説>gooの映画解説より
76年のアルゼンチンの軍事クーデターを背景に、政治犯として5年間の監獄生活を送った主人公の苦悩と喜びの間でさまよう一夜を描く。エグゼキュティヴ・プロデューサーはサビーナ・シーグレルとジャミラ・オリヴェシ、製作・監督・脚本・美術は「タンゴ ガルデルの亡命」のフェルナンド・E・ソラナス、共同製作はエンヴァール・エル・カドリ、パトリシア&ピエール・ノヴァ、撮影はフェリックス・モンティ、音楽はアストル・ピアソラが担当。出演はスス・ペコラロ、ミゲル・アンヘル・ソラ、フィリップ・レオタールほか。88年カンヌ映画祭監督賞授賞。
<ストーリー>
83年のある夜、軍事独裁政権が終り5年間の刑務所での服役から解放されたフロレアル(ミゲル・アンヘル・ソラ)の前に、この歳月が刻んだ思い出が幻想となって浮かびあがる。--5年前、食肉工場の技師だった彼は組合に関与したことから秘密警察に追われ、駅の廃墟に身を隠すが、そこで出会ったマリア(イネス・モリーナ)とつかの間の恋におちる。やがて夫の逮捕を知ったフロレアルの妻ロシ(スス・ペコラロ)は、役所や警察、兵舎など方々を尋ね歩き、彼の生存を確かめる。マリアは、フロレアルの同僚ペレグリーノ(アントニオ・アメイヘイラス)のトラックで南へ向い、ロシも彼のトラックで夫の収容されている刑務所へ面会に行く。フランス人技師で片足に障害のあるロベルト(フィリップ・レオタール)は、フロレアルの身を案じながらも帰国を決意するが、彼のお別れパーティの夜、愛の告白をうけたロシは次第にロベルトの愛を受け入れてゆく。そんなロシの告白に、嫉妬し怒り狂うフロレアル--。彼を包む夜の闇に、今は亡き友人や知人が亡霊のように浮かびあがる。死者を自称するかつての友人ネグロ(リト・クリス)から祖国や家族の面倒を見るのは誰かを教えられたフロレアルは、夜明けと共に内省の旅を終え、彼を待つロシのもとへと向かうのだった。
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<キャスト>
Rosi Echegoyen ススー・ペコラーロ
Floreal Echegoyen ミゲル・アンヘル・ソラ
Roberto フィリップ・レオタール
El Negro リト・クリス
Emilio ウリセス・ドゥモン
Amado Roberto Goyeneche
Echegoyen Mario Lozano
Peregrino アントニオ・アメイヘイラス
Maria イネス・モリーナ
<スタッフ>
監督 フェルナンド・E・ソラナス
製作総指揮 サビーナ・シーグレル
ジャミラ・オリヴェシ
製作 エンヴァール・エル・カドリ
フェルナンド・E・ソラナス
パトリシア&ピエール・ノヴァ
脚本 フェルナンド・E・ソラナス
撮影 フェリックス・モンティ
美術 フェルナンド・E・ソラナス
音楽 アストル・ピアソラ
編集 Pablo Mari
2011.4.6 記
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