(この記事は2020年に書いたものを、2024年3月に加筆修正したものです。)
時々メーリングリストから、署名のお願いメールが届きます。
賛同できるものがあったら署名をします。
もちろん、指先ひとつ動かしたくらいで世界が変わるわけではありません。
署名を呼びかけた人たちが、メディアに働きかけたり議員と面会したり、継続してがんばっているのです。
そのとき、持ち込む署名数が多い方が有利には違いありません。だからささやかながら協力しています。最大瞬間風速のインパクトは大きいのです。署名のあとは、SNSで拡散しておきます。
署名を募るメールは、Change.org、Avaaz、アムネスティから来ます。
私がネット署名をするようになったのは2014年くらい。
そのころブログに、ネット署名の紹介記事をいくつか書きました。そのへんの過去の記事を整理して、当時を振り返ってみたいと思います。
(1) 2014年の都議会ヤジ問題
ネット署名のハシリといえば、まず思い出すのがこの件。セクハラやじ問題とも言われます。
change.orgを通して、9万筆の署名が集まりました。
署名を提出された担当者は、なんの政治団体にも属していない人たちが、短時間でダンボール何箱分もの署名を集めたことに驚いたそうです。
(2) ケニアの性暴力事件について
Avaazは世界規模で活動している団体で、その分野は多岐に渡るようです。
私が最初に署名したのは、2014年にケニアで起きた、1件の集団レイプ事件に関するものでした。
事件のひどさに加え、地元警察が加害者たちへ与えた罰が「警察署周辺の草刈りを命じる」というのが、社会の怒りに火をつけたようです。
この事件の背景にある問題はさらにひどく、「学校に通う女子の3分の2、男子の半分が、性的暴行を受けた経験がある」というものでした。ちょっと目を疑うような数値です。
こんな現状においても、そのうちの1件の事件が耳目を集めることは、大いに意義があることだと思います。世の中を変えるきっかけになり得ることです。
私のところにメールが来たとき、世界中から集まった署名はすでに180万を超えていて、それが増えていく様を興味深く見守っていたことを覚えています。
(3) ムチ打ち刑への反対
「署名したあとはどうなるのですか?」という質問に対し、「とにかく色々なことが起きているのです!」と答えたAvaazさんですが、成功例のひとつとして紹介していたのが、「モルディブでレイプ被害者の少女がムチ打ち刑を宣告された事件」です。
レイプ加害者の方ではなく、被害者の方がムチ打ち刑にされるんですよ。なぜそういうことになるのか。姦淫の罪(未婚の少女が異性とみだらな行いをした罪)だそうです。最初に知ったときは目を疑いましたが。
幸いムチ打ちの判決は棄却されましたが、そこに至るまでにAvaazのメンバーが奔走し、様々な方向から圧力をかけたということです。
私はアムネスティのアクションで、似たような事件に署名しています。こちらはインドネシアのケースで、どちらもイスラム原理主義が関連するものでした。
(3) 悪法の阻止
Facebookでいいね!をしていたせいか、アムネスティのUSA支部からもメールが届くようになりました。
なにぶん英語なもので、ざっと読んでだいたいの意味をつかむ程度です。take action! の文字があったら、クリック。
2014年、チュニジア、アルジェリア、モロッコにおける、とんでもない法律に反対のメッセージを送るというのがありました。
そのとんでもない法律とは、「未成年者をレイプした場合、加害者は被害者と結婚することができ、そうすれば罪に問われずに済む」というものです。
なぜそういうことになるのか。アムネスティの説明によれば、女にとってのゴールは結婚であると考えられていて、しかも処女でないと結婚できなくなる、ということ。そのためこの法律は、結婚できなくなった女への救済措置である、と考えられているそうです。
少女にとっては性的暴行だけでも悪夢なのに、その加害者と結婚させられるなど、一生続く拷問以外の何ものでもありません。自殺者が続出って、当然ですよね。
ちなみに同様のアクションが、これより以前に日本のアムネスティでも行われてました。これはモロッコのケースだったと思います。
その結果、法律の制定を阻止するという成果はあったようです。ただし被害者が12歳以下に限るという条件付きだったので、課題はまだ残ると報告されました。だからその後のUSAのアクションに、またモロッコがまた含まれていたのでしょう。
(4) ガザ空爆
2014年7~8月。イスラエルによるガザ空爆を受けて、3つほど署名を頼まれました。
三者三様、署名相手が違っていて興味深かったです。
まずfacebookで知り合いの知り合いから回ってきたもの。イスラエル大使館に抗議のFAXを送るというものでした。連名で送ってくれるというのでお任せしました。
思い立って個人で実行する、行動力のある人がいるんですね。
もうひとつはアムネスティのオンラインアクション。
こちらは、イスラエルに武器を供給しているアメリカとイギリスに、武器供与をやめるよう呼びかけるものです。
そしてAvaazのネット署名。政治的な解決方法が成功しないのなら、経済的な手段に訴えようというもの。イスラエルの占領政策に加担している欧米の企業や銀行に訴えかけ、イスラエルに経済的な打撃を与えるのだそうです。
さらに2週間後、150万の署名が集まったけど、企業は時間稼ぎをしてほとぼりが冷めるのを待とうとしているので、追加のメッセージを送ろうという呼びかけがきました。いろいろ工夫しているようです。
(5) 名誉殺人を阻止する
SNSを使うようになって、世界中からいろんな情報が入ってくるようになり、世界の多くの場所で女が受けている扱いについて、驚きの絶えない日々を送ることになりました。
2014年、レイプ被害者である10歳の少女が、一族の名誉を汚したとして親族から殺害される危機にあるという報告がありました。
このような風習は世界に広く残っているらしく、名誉の殺人(honor killing)というそうです。なぜ加害者ではなく被害者の方を殺すんでしょうね?必ずしもイスラム原理主義と関係あるとは限らないようです。
もちろん法律上は殺人罪ですが、名誉殺人を行っても罪が減免されることが多いそうです。性暴力を受けた上に自分が悪いかのように責められ殺されかけている少女の恐怖と苦しみは、想像に余りあります。
被害者の少女も、それをかくまう支援者も、殺害の脅迫を受けているけど、警察や行政はそれを守るために動こうとしない。だから当局に圧力をかけるための署名を集めるということでした。
(6) インドのケース
現代の法律よりも、古くからの慣習の方が幅をきかせる地方は、まだたくさんあるようです。
2015年にアムネスティのオーストラリア支部からきたメール。インドのとある村の議会が、二人の姉妹(23歳と15歳)に「レイプした上、はだかで引き廻し見せしめとする」という刑を宣告したというものです。
なんの罪でかというと。彼女たちの兄が既婚の女性と駆け落ちしたんだけど、本人は行方不明で制裁を加えられないので、兄のかわりにその姉妹を処罰するのだそうです。なめとんのか。
その後の報告は聞いていません。でも、たいていUSA支部やオーストラリア支部から英語で情報がきたあと、日本支部からも翻訳した情報がくることが多いのですが、日本支部からこなかったところをみると、じゅうぶんな署名が集まったか解決したかで、必要なしと判断されたとみていいでしょう。
それはそうですよね。インドの法律がそんなことを許すわけがない。ことが明るみに出れば、インド国民だって黙ってはいないでしょう。逆に言えば、明るみに出ないところでそんなことが多々行われていたのだと考えると、恐ろしいことです。
最近(2020年現在)は、ネット署名もすっかり普及して、署名のお願いがきてからしばらくすると、新聞などのメディアに取り上げられてる、というケースもよく見るようになりました。
とはいえ、すべてのネット署名が成功するわけでは、もちろんありません。
シリア内戦を終わらせるよう、世界のリーダーに訴える署名にも参加しましたが、終わる気配もありません。
残念なことですが、発起人がバッシングを受け、ぼろぼろになってやめてしまうケースもあるようです。
しかしネット署名が普及するにつれ、やり方のノウハウも蓄積していくでしょうし、だんだんやりやすくなっているのかもしれませんね。
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