クラムの写真は座っているものが多い。それは“座り込み症候群”の発作時を撮ったものだからなのだ。この頃は散歩にならない。1㌔歩くのに1時間を費やす。歩数にして3000歩に過ぎない。治療してやりたいのだが、検査を受けても悪い所ない。なぜなのだろう。判らん。
老人性乖離7
均は2年前に、3年介護した母を亡くして、ヤモメ暮らしであった。だから保子たち親子の側さえ問題視しなければ、彼女らを部屋に迎えてもなんの支障もない。それに団地という住宅は無干渉住人の巣窟である。ドア一枚隔てるだけで隣人の顔も何をする人かさえも判らない。均は、その旨を親子に告げ部屋に招じ入れた。親子は、同郷のB市出身と言う事もあって、忽ち打ち解け、今日までの、来し方、顛末を聞かされた。保子は、男好きのする顔立ちであった。彼女もそれを意識していて美貌を武器に、O市の繁華街で、飲み屋を経営していた。客あしらいも悪くないので、そこそこ繁盛していたのだが、客の石川利夫とねんごろになったのが躓きの基だった。利夫は日本人離れした長身で眉目秀麗な男であった。保子は忽ち、のぼせあがって、同棲を始めた。だが利夫は、その界隈で“種馬のトシ”と異名を取るドンファンで、女の間を点々としながら、貢がせるのを生業としていた。間もなく将来、絶世の美女を、思わせる女の子が生まれた。春菜は両親のいいとこ取りして誕生してきたのである。