”切り売り”のスピーカーケーブルを買って、楽しんでいらっしゃる方も多いと思います。
少し前の記事になりますが、「Audio Accessory 189号(2023 SUMMER)」でも、特集で30モデルが紹介されています。
さて、この”切り売り”のスピーカーケーブルをスピーカーに接続する時に、どのように接続されているでしょうか?
外皮を剥いて裸線で接続する、バナナプラグを使う、Yラグ端子を使うというのが一般的だと思います。
今回は、先ず市販されているバナナプラグやYラグ端子について簡単にご説明します。
そして、本題である「ねじ止め式バナナプラグに最適なスピーカーケーブルの芯線の太さ」について実験を交えてご説明いたします。
<バナナプラグ・Yラグ端子の例>
手持ちのバナナプラグとYラグ端子を並べてみました。
本当にいろいろな種類がありますし、メッキの種類も金メッキや銀メッキ、ロジウムメッキ等さまざまです。
上記の写真に掲載しているのは、販売されている商品のほんの一部です。
ただし、芯線との接続方式は圧着式かネジ止め式がほとんどで、ハンダ付け方式はごく少数です。
また、バナナプラグはその構造から殆どがネジ止め式となっています。
値段も様々で4個セット千円台から2個セット数万円のものまであります。
<芯線との接続方式によるメリット、デメリット>
スピーカーケーブル芯線とバナナプラグやYラグ端子との接続には、「ネジ止め式」と「圧着式」があります。
それぞれのメリットとデメリットをご説明いたします。
(1)ネジ止め式のメリットとデメリット
ネジ止め式のメリットは、取り付けが簡単で付け替えが何度でもできることです。
スピーカーケーブルを変えた場合でも、バナナプラグやYラグ端子は再度使うことができます。
一方デメリットは、撚線の芯線1本の直径が細い場合、ネジを絞めた際に芯線が切れてしまうことがあります。
また、バナナプラグの内径に対して締めつけるネジが小さい場合には、芯線の太さにより接続が不十分になる場合があります。
(2)圧着式のメリットとデメリット
圧着式のメリットは、撚線でも単線でも確実に固定できるのが最大のメリットです。
一方、デメリットとしては、バナナプラグで圧着式のものはオーディオ用としては殆ど市販されておらず、Yラグ端子しか選択肢がないのが現状です。
更に、使用するスピーカーケーブルの芯線の太さにあった圧着端子を選ぶ必要があり、圧着する端子に適合した圧着工具も必要となります。
そして、圧着方式の端子は一度圧着してしまうと再利用はできず、端子を交換する場合はケーブルの芯線を切断する必要があります。
<圧着工具の例>
左側の圧着工具はペンチ式で安価ですが、実用的には2.0sqの圧着までです。
5.5sq以上の圧着には右側の大型工具が必要となります。
大型工具は安価な製品も販売されていますが、JIS規格に準拠した製品をお勧めします。
さて、それでは今回の本題である「ねじ止め式バナナプラグに最適な芯線の太さ」について実験を交えてご説明いたします。
<ねじ止め式バナナプラグと芯線の太さの実験>
ねじ止め式のバナナプラグ2種類と使って、スピーカーケーブル芯線の直径が変わると接続がどうなるのかを試してみました。
使用した材料は次の通りです。
(1) スピーカーケーブルは4芯構造「CANARE 4S8G」
(2) バナナプラグ「AEC BP-208CG」(ネジ止め式)
(3) バナナプラグ「オーディオテクニカ AT-6301」(ネジ止め式)
2つのバナナプラグの「ケーブル取付口の構造と大きさ」を比較してみました。
両方ともネジ止め方式で構造も同じです。
ネジの太さもほぼ同じですが、AEC BP-208CGの方は内径が大きく、より太い線に合わせて設計されているのがわかります。
このため、AEC BP-208CGの方はネジとブラグ内部の隙間も多くなっています。
一方、オーディオテクニカ AT6301は、内径が小さいためネジとプラグ内部の隙間も殆どない状態です。
1.バナナプラグ「AEC BP-208CG」の場合
スピーカーケーブル「CANARE 4S8G」は、撚線4芯構造で芯線1本の断面積は1.27m㎡(16AWG)です。
AEC BP-208CGに、芯線を1本から4本まで順次太くしていき、接続した場合の接続状態を実験しました。
(1) 芯線1本の場合の接続状態
芯線が1本の場合には、線がプラグの内径に対して細すぎるため、ネジを強く絞めることができませんでした。
強く絞めるとネジが内側に抜けそうになってしまうため、緩く締めています。
接続状態を根元から見てみました。
芯線がバラけて、ネジに締め込まれていない線がいくつか見えます。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
ねじ止めは、プラグの入口と中央の2箇所で行いますが、芯線の状態を見ると根元のネジ止めから芯線がバラけており、中央部分のネジでは芯線が平らになって止まっていない状態になっています。
この状態では、接続が不安定でやっと接触しているような状態だと思います。
(2) 芯線2本の場合の接続状態
次に芯線を2本束ねて、同じように接続してみました。
今回は、下側のネジはしっかり絞める手応えがありました。
ただし、上側のネジは手応えがやや弱く、あまり力をいれるとネジが中に抜けてしまいそうでした。
写真を見ると、ネジの下に芯線がしっかり挟まっていますが、ネジの横に逃げているものもあります。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
今回は、プラグの下側のネジの部分は芯線に丸い跡がついていますので、固定ができているようです。
また、プラグの上側にあるネジの部分は、芯線1本の場合にように芯線がバラけてはいませんが、あまりしっかりとは締めつけられていないようです。
(3) 芯線3本の場合の接続状態
次に芯線を3本束ねて、同じように接続してみました。
今回は、上下のネジ両方ともしっかり絞める手応えがありました。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
今回は、プラグの下側のネジの部分は芯線にしかりと丸い跡がついていますので、十分な固定ができているようです。
但し、注意していただきたいのは、ネジ跡の周りが大きく盛り上がっていることです。
この部分はネジから逃げている部分で圧力がかかっておらず、接触が不安定になっている部分です。
(4) 芯線4本の場合の接続状態
更に芯線を4本束ねて、同じように接続してみました。
芯線3本を束ねた場合よりの、よりネジをしっかり絞める手応えがあり、かなりの力で締め付けることができました。
芯線とプラグとの接続もグラグラせず、しっかり感があります。
芯線多くなったため、ネジの止め具合は見えません。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
芯線にネジの丸い跡がしっかり残っており、芯線とネジの接触部分が平らになっています。
しかも、ネジ跡の周りの盛り上がりも少なく、全体として芯線が円筒形の形に沿っています。
十分な圧力で芯線全体が固定されていると思われ、接触抵抗も十分に低くなっていることが想像できます。
このプラグは、これくらいの太さ(1.27m㎡×4本=5.08m㎡)の芯線に合わせて設計していると思われます。
2.バナナプラグ「オーディオテクニカ AT6301」の場合
スピーカーケーブル「CANARE 4S8G」は、撚線4芯構造で芯線1本の断面積は1.27m㎡(16AWG)です。
オーディオテクニカ AT6301に、芯線を1本から4本まで順次太くしていき、接続した場合の接続状態を実験しました。
(1) 芯線1本の場合の接続状態
オーディオテクニカ AT6301は、内径が小さいためネジとプラグ内部の隙間も殆どなく、芯線1本の場合でもしっかり固定することができました。
写真では分かりにくいですが、ネジ締めの手応えもしっかりあり、全ての芯線がネジによって締め付けられています。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
芯線がバラけておらず、しっかり固定されています。
(2) 芯線2本の場合の接続状態
芯線2本の場合も、もちろんしっかりとしたネジ締めの手応えがあり固定できました。
全ての線がしっかりネジの下で締め付けられています。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
2本の場合も芯線がバラけておらず、しっかりとネジの跡が残り固定されています。
(3) 芯線3本の場合の接続状態
芯線3本の場合は、まさしくピッタリという感じで、しっかりとしたネジ締めができました。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
3本の場合もしっかりとネジの跡が残り固定されています。
また、AEC BP-208CGのようにネジ跡の周りが大きく盛り上がるようなこともなく、芯線全体に圧力が加わっていることが分かります。
(4) 芯線4本の場合の接続状態
更に芯線を4本束ねて、同じように接続してみました。
芯線の太さに対して、バナナプラグの内径が小さいため無理やり押し込んだ感じです。
ネジを締めてみると、上側のネジはなんとか締まりましたが、下側のネジは奥まで締め切らずネジが浮いてしまいました。
プラスチックの赤いカバーも入らない状態になっています。
芯線の状態を確認するため、ネジを緩めて引き抜いてみました。
もちろんしっかりとネジの跡がついているのですが、芯線が切れそうになっているように見えます。
さすがに芯線が太すぎました。
<実験結果より>
1.AEC BP-208CGの場合
適切な芯線の太さは、CANARE 4S8Gの芯線4本分(断面積 5.08m㎡)でした。
芯線1本分(断面積1.27m㎡)〜2本分(断面積2.54)m㎡では接続が不十分です。
芯線3本分(断面積3.81m㎡)ではほぼ接続されていますが、圧力がかかっていない(浮いている)芯線が一部あり、接触が不安定になっている可能性がありました。
この原因は、バナナプラグの内径に対してネジの直径が小さく隙間が多いため、ネジを締めた際に芯線の一部が逃げるためです。
尚、このプラグは「円筒波型スリット式」で、スピーカーターミナルに差し込んだ際に接触面積が大きく、かつ圧力も高い優れた製品です。
プラグ自体の音質も良いため、芯線との接続を工夫してしっかりさせれば、その性能を引き出すことができます。
2.オーディオテクニカ AT6301の場合
CANARE 4S8Gの芯線1本分(断面積1.27m㎡)~芯線3本分(断面積3.81m㎡)を確実に固定でき、芯線の太さの適合範囲が広いことを確認できました。
やはり、バナナプラグの内径に対してネジの直径が大きく隙間がほとんどないため、ネジを締めた際に芯線が逃げることなく固定できるのが大きなメリットです。
<最後に>
バナナプラグを選択する場合はプラグ自体の音質が重要ですが、スピーカーケーブル芯線とバナナプラグの接続がどのようになっているかも大変重要です。
今回の実験結果でも示されたとおり、バナナプラグの内径に対して締め付けるネジが大きく、隙間がほとんどない製品が、幅広い芯線の太さに対応できます。
一方、市販品を見てみると、バナナプラグの内径に対して締め付けるネジが小さく隙間が大きいものが多く、残念なところです。
しかし、ハイエンドモデルを中心に、芯線との固定を考慮したバナナプラグも発売されています。
オヤイデ電気の「SGBN」や、FURUTECHのフラグシップモデル「CF-202 NCF Plus(R)」などは、幅広い芯線の太さに対応する製品で、独自の工夫がなされています。
音質により拘る場合は、ひとつの選択肢になると思います。
今回の実験結果がご参考になれば幸いです。