ドラマチックな時間はまだ終わらず
「僕の名前を呼ぶのは誰?遠いようで近いようで」
そう歌い始めた昭仁の声がサビのところで聞こえなくなってしまった
うっ!まさかっ!!
でもビジョンの昭仁は必死に声を絞っている。
雨に濡れたことでマイクが接触不良になったようだった
ここまでで今日のライブにのめりこんでいたオーディエンスは、口々に歌い始めた
どこかで逢う人よ 出逢うべき人よ 君は確かにいる 感じる
雨の音に負けないように、みんなでステージの演奏に合わせて歌った。
マイクを変えている間、その声を“もっともっと”と煽る昭仁。
この時、スタジアムにいた全ての人がポルノチームになれたんだと思う。
見る側、見せる側の壁とか溝とか全部関係なくなって
ここに居るみんながいて完成する壮大な夢のひとときなんだよね。
「絆」という字がふと浮かぶ。
なんて素敵な空間にアタシはいるんだろう。贅沢の極みという時間だった。
雨に濡れて寒そうにしている会場のみんなを昭仁が気遣う
どこかの曲で今回のタオルを次々に客席に投げ込んで行った。
みんな元気?
げーんきぃ
みんな元気?
げーーんきぃぃ
ふふっ。元気なんじゃ。 なんだその笑いは しかもちょっと残念そうな
ここからは本当にお祭り騒ぎ
なにがあってもヘッチャラさ
でも一人だけヘッチャラでなかったのは・・・haruちゃん
メリッサのソロがぁぁ~~ ははっ。はははははー
曲が終わってすぐに客席に背を向けて・・・ガクッとうなだれる
きっとそこにいた誰もが彼の背中を“トントン”てしたかったろうね
みんな大丈夫? ほんまだいじょぶ??
合間に昭仁が何度も声をかける。
今はいった情報だと・・・この雨はあと10分で上がるらしいよ。ピンポイント天気によるとね。
空は見渡す限りまるで真夜中のような黒一色
当然10分たっても上がらず・・・20分たっても状況は変わらずで
よく夏の海の迷子センターで保護された子供に
「もうすぐお母さんくるからね~」というささやかな気休めのような・・・あと10分
もう、ここまで濡れたらどこまでも一緒です。
今ピタリと雨があがってホッとするのはギタリストとバイオリニストくらいです。
『やけくそ』という言葉があるけど、どう頑張ってみてもこれ以上どうにもならないのなら
いっそこの時を思い切り楽しんでしまえ
ライブも中盤になると客席の気持ちも後の事などお構いナシ
そんなテンションで終始笑っていたような記憶がある。
なーんでこんなに楽しいんだろう
最低・最悪なのに最高
どんなに不幸な状況も大好きな人と一緒だったらヘッチャラてことなんだな
一生懸命なステージを見ながら、自分の気持ちを振り返ることも多くて
そして雨に濡れた手足のピリピリとした冷たさもあって時々ボーーっとなる。
気がつけば本編の全てを終了し、いつものように挨拶をするメンバー。
「今日はこれで終わりかな」
そんな声が聞こえる中、センターステージに向かって歩く2人。
え゛゛゛!!!
会場がざわついた。
アタシは目の周りに雨とは違う温かなものを感じた。
昭仁のMCを急かして、丁寧に そう。
丁寧にギターの音が鳴り始めた。
最近もTVの中 僕を見かけたりするだろう?
2008年の6月9日に何があったのか、アタシは知らない。
どんな心の動きがあってこの詞をしたためたのか、アタシは知らない。
知らないことは知らなくてもいいのかもしれない。
今ここにいてたくさんの人と一緒に
彼らの声を聞いて
今もこうして目の裏側の光景をじんわりと懐かしく感じられる。
その事実だけは変わらない。
それでいい。
君の見る夢はどうですか?
探しているもの見つけよう 一緒にね
きっとあの時そこに居た人は2人と指きりげんまんをしたんだと思うの
長い長い9月7日の夜、大切な人と共に生きる約束をした。
そんなことの出来るアーティストって他にいない。
そんな気持ちになれるライブってないよね
だからアタシたちは片手を上げてみんなに手を振りながらステージを降りる彼らを見送ったの
背中がちゃんと消えるまでずっとずっと手を叩いて叫んでいたんだよ。
ありがとうって。
昭仁もharuちゃんも聞こえたかな?
でもきっと届いたと思っているけどね