★画像は、愛蔵版「キャンディキャンディ」いがらしゆみこ先生 原作水木杏子先生より
駆け落ち3日前。
ジョルジュは駆け落ちの計画を話すため、ヴィンセントに会いに行った。
「ジョルジュさん、お世話になります。今までもローズマリーと会えるように協力してくれたり、あなたがいなければこうならなかった。本当にありがとうございます。」
ヴィンセントは丁寧に頭を下げた。
「滅相もないことでございます。私は何も。どうか頭をお上げ下さい。」
ヴィンセントと別れてからの車中、ジョルジュは運転しながら思い出していた。
去年の夏、ローズマリーから海を見たいと言われ、ビーチに連れて行った。
シートを広げパラソルを組み立てていた時、ローズマリーの帽子が飛ばされ、ヴィンセントが拾い二人は出会った。自分がすぐ動いて帽子を拾いに行っていたら・・・。
~ 要らぬことを考えてしまった。考えて何になる。忘れなくては。 あの方ならローズマリーさまをお幸せにして下さる。 ~
ジョルジュは浮かんできた忘れられぬ気持ちを切り替え、車を走らせた。
その日の夜、親戚のラガン家の若夫婦がディナーに来る予定だ。エルロイは二人を気に入っている。
ローズマリーは一緒にディナーは気が進まなかった。しかし勘がいいエルロイに悟られないように、平静を装ってディナーに出席することにした。
アルバートは隠蔽されている身なので当然欠席だ。
自室の鏡台の前で、メイドのアンに髪を結い上げてもらった。ダイヤの髪飾りを左サイドにつけた。
瞳の色と同じ緑色のシルクのイブニングドレスを着た。
大きく開いた胸元にはエメラルドの豪華なネックレスをつけ、揃いのイヤリングをつけた。
「お嬢様はお綺麗で本当に素敵・・・憧れます。。。」
アンは胸に手を当て、うっとりした顔でローズマリーを見ている。
「もう大げさよアンは。全然綺麗じゃないわよ。それよりこの前頼んだ例の物買って来てくれたかしら?」
「はい。お嬢様。今お持ち致します。」
アンは一度退室し、再び箱を抱えて戻って来た。
「これでございます。」
ローズマリーは箱を開けた。白いパフスリーブのブラウスと、黄緑色と白色の細いストライプの柄の膝丈のエプロンドレスと、髪につける共布のリボンが入っていた。
「わあ!可愛い。こういうのが欲しかったのよ。ありがとう。アン!」
「お役に立てて嬉しいです。お嬢様がこういう庶民が着る洋服を欲しがるなんて不思議です。」
「変わり者なのよ! ところでアン、これ良かったら受け取って。」小箱を渡した。
プラチナの小さな薔薇の花に小粒のダイヤとパールをあしらった可愛らしいブローチが入っていた。
アンは畏れ多いと言って受け取らなかった。
「洋服を何度も買いに行ってくれたささやかなお礼よ。二人の秘密。ね!」アンにウィンクした。
アンは感激しその場にしゃがみ込み泣き出した。
それはアンの生涯大切な宝物になった。
ディナーが始まった。
なごやかに歓談していたが、ローズマリーの話題になった。
「ローズマリー様、もうすぐ結婚相手を選ばれるパーティーが開かれるとお聞きしましたが。」夫人のサラが話しかけた。
「ええ。」ローズマリーはそれだけ返事をした。
「あの船乗りとは別れたのですよね?あんな身分の低い卑しい貧乏人がローズマリー様と釣り合うわけがありません。
そうですわよね?エルロイ大おばさま?」
「そのとおりですよ、サラ。船乗りとは別れさせました。アードレー家にふさわしい人を選ばせますよ。」
「ローズマリー様と結婚しようだなんて身のほど知らずです。許せません。」
「まあ 船乗りと別れたんだから良かったじゃないか。めでたいことだ!今夜は祝杯だ、ハハハ。」ラガン氏も口を挟む。
「あの男の話は気分が悪い。その話はやめましょう。」
エルロイのその言葉から違う話題になった。
ローズマリーは腹立だしいような呆れたような気持ちを抑え、表情を崩さず意識して微笑を作った。黙々と食事をした。
ふと、 自分がこの屋敷を出た後のことを考えた。大騒ぎになって、使用人達が大勢必死で探し回るだろう、駆け落ちの手伝いをしたジョルジュにお咎めがなければいいが・・と。
そして、厳しかったが自分を娘のように可愛がっていたエルロイの気持ちを考えると・・・・。
~ 大おばさま ごめんなさい ~
心の中でエルロイに謝った。
続く