★画像は、愛蔵版「キャンディキャンディ」いがらしゆみこ先生 原作水木杏子先生より
駆け落ち2日前。
朝食前、ローズマリーはアルバートの部屋を訪れた。
子供が使うには広過ぎる豪華な部屋に、似つかわしくない一角があった。木材や工具や塗料が、散乱しており、もの作りをするアルバートのお気に入りの場所。
ちょっとした暇を見つけてはコツコツ手作りするのが、楽しみの一つであった。
今はエルロイにあげるために鷲の木彫りを製作中だ。アルバートはここにいた。
「バート、おはよう。今日空いてる時間はあるかしら?裏庭に一緒に行かない?」
「おはよう。 行きたい !午前中は授業がびっしりで無理だけど。えーと、確か午後は地理が終われば空いてたと思う。」
「決まりね!終わったら行きましょう。」
「うん!!」
二人は裏庭に行くことを約束した。
「これだいぶ出来てきたわね。アードレーの鷲か・・。上手に彫れてる。バートはやっぱり器用ね。」
「そんなことないよ。」
「完成が楽しみね!!」
言葉と裏腹に、ローズマリーは完成した木彫りを自分はもう見れないのだと残念に思った。
アルバートが家庭教師の授業を受けている間、ローズマリーは厨房に行き、鳥や星や花の型抜きを使い、クッキーを焼いた。あとハムを挟んだサンドイッチを作った。これらの他にカットしたオレンジとチョコレートをバスケットに詰めた。ポットにはアイスココアを入れた。
バスケットを持って鼻歌を歌いながら廊下を歩いていると、エルロイに呼び止められた。
「ローズマリー お待ちなさい。なんですか、鼻歌なんてはしたない。また変な庶民の格好をして。まさかあの男に会いに行くのではないでしょうね?」
エルロイの怪訝な声が響いた。
ローズマリーはアンに買わせたエプロンドレスを着ていた。髪はポニーテールで、共布のリボンを結んでいる。
「違いますわ。バートと裏庭に遊びに行くのです。バートを待っているのです。
クッキーを焼いたので、メイドに大おばさまのティータイムにお出しするように頼みました。」
「そうですか。それなら良いのですが。全くあの男のせいですっかり庶民的になってしまって・・。あなたはアードレー家の令嬢で、ドレスは数えきれないほどあ … 」
「大おばさま、失礼します。」ローズマリーはエルロイの言葉を遮り軽く一礼し足早に去った。
授業が終わったアルバートと裏庭に遊びに行った。
森の澄んだ空気を吸い込み、花を見て癒された。
二人で木登りをした。途中からアルバートは上の高い枝までためらわず登って行った。ローズマリーは足がすくみそれ以上登れなかった。
~ 昔は私がリードしていたのに、バートは一人で上まで行けるようになったのね ~ ふっと微笑んだ。
シートを広げおやつを食べた。
「クッキーおいしいね!」アルバートがニコっと笑った。
「どういたしまして。」
「ロージーはお菓子作りは得意だけど料理は作れるの?」
「作れるわよ!シチューでしょ。それから野菜スープに、えー、んー・・・。」
「それだけかい?」
アルバートはクスっと笑った。
「今はそれだけだけど・・そうだ、サンドイッチも作れるわ。 なんとかなる! でしょう! 」
「ハハハ。そうだね。」
ローズマリーは家事や料理をほとんどしたことがないが、なるようになると楽観的だった。
この場に、のそのそとゆっくり鹿の親子やうさぎや犬やりすが寄って来た。
「待ってたよー。」
「待ってたわ。」
二人は動物達を歓迎した。
裏庭に放し飼いされている動物達は、二人に可愛がられており警戒心がなかった。
動物達とじゃれあって遊んだ。
その後、手をつないで歌を歌いながら屋敷に帰った。
ダークグリーンの木立の中に涼やかな風が通り抜けていった。
続く