私の教室でフランス語を学ぶ生徒さんは殆ど皆大人の女性です。しかも毎日、とても忙しく働いている女性の方が大半です。そんな忙しい生活の合間にフランス語を勉強なさるのですから、レッスンを受けることが楽しみやストレス解消にもなって欲しいと私は願っています。私がそういう気持ちを抱いていることが先生にも伝わっているのでしょうか、ボグダン先生もそうでしたが、他の先生も冗談を言うのがとても好きで、生徒さんをよく笑わしているようでした。
教室から大きな笑い声が聞こえてくると、私はいつもとても嬉しくなります。

昨年の夏に特別講師を務めて下さったジュリアン・モーラン先生は、きりりとした黒い眉に凛々しく端正な顔立ちの二枚目、オトコマエ先生でしたが、

キャラは三枚目、冗談大好きの明るい先生で、日本語は立て板に水で、とても爽やかな先生でした。

一緒にいて、うきうきと楽しくなるような先生でした。


また、ボグダン先生とともに、三年間、私の教室で講義をして下さったローラン・ロワイエ先生もじわ~と笑えるようなことを言う

先生でした。ローラン先生はソルボンヌ大学でヨーロッパの中世の歴史を専攻していましたので、好奇心旺盛の私はローラン先生と、欧州の中世の生活、とりわけ当時の庶民や子供達の暮らし、魔女裁判や動物裁判の話、アナール派の歴史書などについて語り合いました。ローラン先生は自分がマニアックで、オタクだと気にしていたようですが、

私もややその傾向にありますので、

マニア・オーケー、

オタク上等

とローラン先生を励ましてからは、ますます私達のマニア度は上がっていき、

ちまちました小ネタを転がしながら、話に花を咲かせました。

実のところ、フランス人の若い男性の先生の中には、自分はオタクだと思い込んで気にしている人が存外いるのですが、大阪人の私達にとっては、ただただオモロイだけで、

ごく普通ということが多々あります。

ジュリアン先生はオタクというよりトリヴィアの博士でしたが、オモロイこと好きでしたので、私達にすっかり溶け込んで、生徒さんとノリ・ツッコミ

ボケ

で楽しそうに遊んでいました。

一方、知的な話題が大好きなローラン先生は、日本で翻訳されているフランスの歴史書の多さに目を見張り、驚いていました。「フェルナン・ブローデルがこんなに翻訳されている国って他にないと思う。

日本人の知的好奇心ってすごいよ


」と感心しながら、ローラン先生は私にブローデルの話を興奮気味に延延と話していたことがありました。今思えば、ローラン先生はきっと私達日本人にフランスの知性を何としても伝えたかったのでしょう。

ローラン先生もボグダン先生とほぼ同じ時期に帰国しましたので、その頃は私だけでなく、生徒さんも寂しい想いをしましたが、今は新しく迎えた先生にすっかり馴染んで、また皆でいろんな話題でわいわいと盛り上がっています。

ユーモアと知性を兼ね備えて、活き活きとした精神を持ち、人柄の良い先生に語学を習っていると、語学力だけではなく、他にも素晴らしいものが自然と生徒さんに身に付いてきます。それは心のゆとりや教養、そして、人を楽しませたり、喜ばせたりする話術やセンス、そして何より自分自身が新鮮な気持ちで物事に興味を持ったり、喜んだりする感覚です。大人になると、新鮮な気持ちやわくわくする気分を忘れてしまいがちですが、それは生きていく上でとても大切なことのように思えます。

語学のレッスンを通してだけではなく、皆さんの毎日の生活でも、そんな「わくわくする新鮮なひととき」が訪れることを願っています。