雲の上はいつも青空
私の友人でもあった父親を震災で失い、母親と妹を助けながら、
移住先を探していた中学生のT君。
北海道への移住を希望していたが、
まずは親戚のいる関西方面に行くことが決まった。
先日、今避難しているところに顔を出したら、
荷物の整理をしていた。
殆ど自分の物は持たずに来ていた。
ただその中に、ボロボロになったデパートの紙袋が一つ。
大事そうに自分の横に置いていた。
「それ大切な物なの?」そう訊くと、
「はい・・・。」
中を見せてもらうと、
父親と彼が写した家族の写真集、
そして父親が大切に保管していたニコンFが入っていた。
聞くところによると、
最新のニコンのデジタルカメラとレンズは、
父親とともに行方不明だそうだ。
彼の父親はアマチュア写真家だったがプロ級の腕前だった。
そしてT君も親に似て、写真部の部長だったそうだ。
「父は最新のデジタル一眼レフを僕にも買ってくれて、
よく一緒に撮影に行きました・・・。」
そう話した後、しばらく沈黙が続いた。
それから・・・その空気を変えるつもりで尋ねた。
「またいつか写真撮る?」
「・・・今日生きることだけで・・・今は何も考えられませんけど・・・
またいつか・・・落ち着いたら撮りたいです。」
「好きな写真家はいるの?」
「ハービー・山口さんが好きです・・・。」
「そうか・・・実は僕も彼が好きなんだよ!
写真は勿論、人間的にも素晴らしいよ!・・・。」
そんな話をしてその日は別れた。
私は結局彼らに何もしてあげられなかった。
せめて・・・そう・・・せめてカメラくらい用意してあげよう。
そして昨日、明日移住先に引っ越すという彼にもう一度会った。
私は持参したカメラバッグを渡した。
キョトンとして受け取る彼に、
「君のお父さんと私からのプレゼントだよ。」
「えっ父からですか?」
「君のお父さんと私は新し物好きでね、
会えばいつも最新のカメラの話をしていたんだ。
昨年電話で話した時も、
パナソニックのカメラを使ってみたいと言ってたよ。
そこに入っているのは最新のカメラできっと欲しかったはずだよ・・・。」
そう話すと震災後に会ってから、はじめて彼は笑顔を見せた。
普段感じなかったけど、笑顔がどれくらい大切か・・・
私は恥ずかしながら・・・その時しみじみ感じた。
彼のために私は自分が愛用していたカメラバックと、ノートパソコン、
それから新品のLumix GF2 と交換レンズ4本、予備バッテリー、
そして16GBのSDカード2枚を用意した。
それと・・・発売されたばかりの「ハービー・山口」氏の写真集、
「雲の上はいつも青空」
私に出来るのはその位だ。
「君の家族の写真集もニコンFも、全部そのバックに収まるはずだよ。
ノートパソコンも入ってるから、いつでもどこでも撮影して見れるよ。
・・・そうそう君の好きなハービーさんの写真集も入れてある・・・。」
「ほんとですか?ありがとうございます・・・。」
そう言うと彼は真っ先にその写真集を取り出して眺めだした。
実は「ハービー・山口」氏は、その辺に大勢いる、
写真は上手だが人間的には傲慢な写真家とは全く違う。
彼は生れて3ヶ月で「腰椎カリエス」を患い、本人の言葉によると、
暗い青春時代を過ごしたそうだ。
その幼少、少年時代の体験が大きく彼の人生観、
そして写真に影響を与えている。
私がT君に渡したのは、
今月発売されたばかりの「写真&エッセイ集」である。
幼少時代の事も書かれており、
実に人間味を感じさせる優れたエッセイ集である。
もちろん掲載されている写真も素晴らしく、
全てライカで撮られた、人物中心のモノクロ写真だ。
T君はしばらくじっと写真を眺め、
そこに書かれている文章を読んでいた。
そしてぽつりと言った。
「ハービーさんの写真・・・素晴らしい笑顔が多いですけど、
今の僕には撮れないです・・・それよりこんな笑顔になれて羨ましいです・・・。」
そこまで話すと後は言葉にならなかった。
彼の眼から大粒の涙がこぼれた。
私も思わず胸が熱くなり涙が出そうになったがこらえ、
彼の肩に手を置き、「頑張って生きよう!」
そう言うのがやっとだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰路の途中考えた。
T君のような悲劇、いやもっと悲しい現実に直面している方が、
いったいどれだけいるのだろうかと・・・。
「悲しみの涙で枕を濡らした人間の方が、良い写真を撮る」
いつか彼が大人になって、
そう思えるような強い人間になれることを、
僕は心から願っている・・・T君頑張れ!
追伸
私は今回の事で、自分が人を撮影する際、
いつも笑顔を撮りたくなるのはなぜか?
その答えが分かりました。
また上で紹介した、ハービー・山口氏のフォトエッセイ集
「雲の上はいつも青空」 玄光社
この本は秀逸です。
T君のために買った本ですが、
あとから自分のためにもう一冊買いました。
写真を撮り始めた方にはもちろん、
我々のようなベテランであっても、学ばされ考えさせられる本です。
「一枚の写真が人の心に清らかさと優しさを与えられたなら・・・。
そんな事を願って僕は日々一枚の写真を撮っている。」
文中の彼の言葉です。
「悲しみの涙で枕を濡らした人間の方が、良い写真を撮る」
これも本のどこかに書かれていました。
確かにその通りだとうなずきました・・・。
また最後に書いておきたいのが、
今回避難所に行って分かった事ですが、
若い方がとてもよく動いて頑張られていました。
今まで言われてきた若者像=無気力・無関心など、
そんなイメージとは全く違う姿を見せられました。
彼らのような若者に、日本の将来を託し、
希望を持って頑張って頂きたいと思います。
★「You are our hope.」
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私の友人でもあった父親を震災で失い、母親と妹を助けながら、
移住先を探していた中学生のT君。
北海道への移住を希望していたが、
まずは親戚のいる関西方面に行くことが決まった。
先日、今避難しているところに顔を出したら、
荷物の整理をしていた。
殆ど自分の物は持たずに来ていた。
ただその中に、ボロボロになったデパートの紙袋が一つ。
大事そうに自分の横に置いていた。
「それ大切な物なの?」そう訊くと、
「はい・・・。」
中を見せてもらうと、
父親と彼が写した家族の写真集、
そして父親が大切に保管していたニコンFが入っていた。
聞くところによると、
最新のニコンのデジタルカメラとレンズは、
父親とともに行方不明だそうだ。
彼の父親はアマチュア写真家だったがプロ級の腕前だった。
そしてT君も親に似て、写真部の部長だったそうだ。
「父は最新のデジタル一眼レフを僕にも買ってくれて、
よく一緒に撮影に行きました・・・。」
そう話した後、しばらく沈黙が続いた。
それから・・・その空気を変えるつもりで尋ねた。
「またいつか写真撮る?」
「・・・今日生きることだけで・・・今は何も考えられませんけど・・・
またいつか・・・落ち着いたら撮りたいです。」
「好きな写真家はいるの?」
「ハービー・山口さんが好きです・・・。」
「そうか・・・実は僕も彼が好きなんだよ!
写真は勿論、人間的にも素晴らしいよ!・・・。」
そんな話をしてその日は別れた。
私は結局彼らに何もしてあげられなかった。
せめて・・・そう・・・せめてカメラくらい用意してあげよう。
そして昨日、明日移住先に引っ越すという彼にもう一度会った。
私は持参したカメラバッグを渡した。
キョトンとして受け取る彼に、
「君のお父さんと私からのプレゼントだよ。」
「えっ父からですか?」
「君のお父さんと私は新し物好きでね、
会えばいつも最新のカメラの話をしていたんだ。
昨年電話で話した時も、
パナソニックのカメラを使ってみたいと言ってたよ。
そこに入っているのは最新のカメラできっと欲しかったはずだよ・・・。」
そう話すと震災後に会ってから、はじめて彼は笑顔を見せた。
普段感じなかったけど、笑顔がどれくらい大切か・・・
私は恥ずかしながら・・・その時しみじみ感じた。
彼のために私は自分が愛用していたカメラバックと、ノートパソコン、
それから新品のLumix GF2 と交換レンズ4本、予備バッテリー、
そして16GBのSDカード2枚を用意した。
それと・・・発売されたばかりの「ハービー・山口」氏の写真集、
「雲の上はいつも青空」
私に出来るのはその位だ。
「君の家族の写真集もニコンFも、全部そのバックに収まるはずだよ。
ノートパソコンも入ってるから、いつでもどこでも撮影して見れるよ。
・・・そうそう君の好きなハービーさんの写真集も入れてある・・・。」
「ほんとですか?ありがとうございます・・・。」
そう言うと彼は真っ先にその写真集を取り出して眺めだした。
実は「ハービー・山口」氏は、その辺に大勢いる、
写真は上手だが人間的には傲慢な写真家とは全く違う。
彼は生れて3ヶ月で「腰椎カリエス」を患い、本人の言葉によると、
暗い青春時代を過ごしたそうだ。
その幼少、少年時代の体験が大きく彼の人生観、
そして写真に影響を与えている。
私がT君に渡したのは、
今月発売されたばかりの「写真&エッセイ集」である。
幼少時代の事も書かれており、
実に人間味を感じさせる優れたエッセイ集である。
もちろん掲載されている写真も素晴らしく、
全てライカで撮られた、人物中心のモノクロ写真だ。
T君はしばらくじっと写真を眺め、
そこに書かれている文章を読んでいた。
そしてぽつりと言った。
「ハービーさんの写真・・・素晴らしい笑顔が多いですけど、
今の僕には撮れないです・・・それよりこんな笑顔になれて羨ましいです・・・。」
そこまで話すと後は言葉にならなかった。
彼の眼から大粒の涙がこぼれた。
私も思わず胸が熱くなり涙が出そうになったがこらえ、
彼の肩に手を置き、「頑張って生きよう!」
そう言うのがやっとだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰路の途中考えた。
T君のような悲劇、いやもっと悲しい現実に直面している方が、
いったいどれだけいるのだろうかと・・・。
「悲しみの涙で枕を濡らした人間の方が、良い写真を撮る」
いつか彼が大人になって、
そう思えるような強い人間になれることを、
僕は心から願っている・・・T君頑張れ!
追伸
私は今回の事で、自分が人を撮影する際、
いつも笑顔を撮りたくなるのはなぜか?
その答えが分かりました。
また上で紹介した、ハービー・山口氏のフォトエッセイ集
「雲の上はいつも青空」 玄光社
この本は秀逸です。
T君のために買った本ですが、
あとから自分のためにもう一冊買いました。
写真を撮り始めた方にはもちろん、
我々のようなベテランであっても、学ばされ考えさせられる本です。
「一枚の写真が人の心に清らかさと優しさを与えられたなら・・・。
そんな事を願って僕は日々一枚の写真を撮っている。」
文中の彼の言葉です。
「悲しみの涙で枕を濡らした人間の方が、良い写真を撮る」
これも本のどこかに書かれていました。
確かにその通りだとうなずきました・・・。
また最後に書いておきたいのが、
今回避難所に行って分かった事ですが、
若い方がとてもよく動いて頑張られていました。
今まで言われてきた若者像=無気力・無関心など、
そんなイメージとは全く違う姿を見せられました。
彼らのような若者に、日本の将来を託し、
希望を持って頑張って頂きたいと思います。
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ちょっと、涙が出てしまいました。
いつの日か、きっと彼はおとうさんのようないい写真を撮るようになることでしょう。
がんばれ!T君!
例えば、私のオリジナルプリントをキャビネか8X10の大きさにプリントして、(大きいと置き場所に困ると思いまして、、)フレームに入れて、T君にお送りするとかなら、喜んでさせて頂きますが、いかがでしょうか。
ハービー・山口
返信が遅くなりまして申しわけありません。
またいつもコメント頂きましてありがとうございます。
今回の震災では色々考えさせられることが多いです。
これから自分に何が出来るのか、
今考えているところでもあります・・・。
このブログは偶然読まれたのでしょうか?
あるいはタイトル「雲の上はいつも青空」から、
検索されたのかもしれませんね…。
いずれに致しましても、
ご本人から直接コメント頂けますとは…
全く想像しておりませんでした。
大変嬉しくまたありがたく思います。
早速T君には連絡させて頂きます。
ただ今は精神的にかなり不安定なので、
いずれ落ち着きましたら、
ハービーさんの写真展に連れて行こうと考えておりました。
実際、時間が解決してくれる問題もあります。
もちろんそれだけでは無理な事もありますが・・・。
また今しばらくは写真を撮る気にもなれないでしょう・・・。
しかしいずれにしましても、
このようなコメントを頂きまして、
きっと本人も喜ぶことと思います。
いつか写真展等に伺いました際には、
彼にご挨拶させますので、
その節はどうか宜しくお願い申し上げます。
本日頂戴しました優しいお心遣い、しっかりと彼に伝えます。
最後になりましたが、
お忙しい中私の拙い乱文をお読み下さり、
コメントまで頂けましたこと深くお礼申し上げます。
誠にありがとうございました。
少々お時間を頂きまして、
いずれお言葉に甘えさせていただきます。
その節はよろしくお願い申し上げます。
本当にお心遣いありがとうございました。