まもなく年が明ける。
今年は、夏のソロ公演によって、コロナ禍で中断された公演活動を再開したが、これは、この2年間の沈黙の中で考えてきたことを基にして、新しい段階のダンス・作品・公演を探ってゆく起点になったと思う。
上演した作品『血ノ言葉』(独舞・上演時間=1時間27分)は、近年に上演したものの中では、かなり苦労した一作だった。ご来場くださったお客様の中には、本作のいくつかの瞬間を対社会的なメッセージとして解釈した文章を後日に送ってくださった方が何人かあり、また、作中に分散して挿入した象徴の意味を受けて感想をくださった方もあった。これには力づけられた。
踊りそのものに、あるいは、肉体それ自体に託したものは言語以前のものとしか言いようがないカオス的で野蛮な力そのものなのだが、『血ノ言葉』という題名の根底には、あの有名なメフィストのささやきがあった。血はやはり特別なジュースなのだという思いが、このウイルスの蔓延のなかで、鮮明になっていった。また、人が生きているなかには決して言葉にできない心が沢山あるのだ、ということが心の中で渦を巻き続けた。
僕にとって独舞公演というのは最近では解体の現場のような側面も出てきている。当たり前のように思えていたことや、何かについての仕方や居方を、あるいは構想と実行の関係を、あるいは虚構と現実の、日常と非日常の、精神と肉体の、、、さまざまを解体するような力が、公演という特殊な緊張感の中でちょっと荒々しくハタラク。上記のものは、そのような感じが特に強かった。
コロナ禍が始まって以来、世界はかつてない経験をしながら様々なものごとの再編成に向かい始めている気がするが、僕自身もその当事者の一人であることがリアルに感じられる年だった。
この2年、苦しいことや心配は増えたが、反面、考えることも増えたし人に話したいことや伝えたいことも増えた。それゆえか、創作面でもレッスンでも、個人個人の方々に再接近するような機会が増えたと思うし、この期間に話し合ったりセッションしたりして蓄積したものはいづれ何らかの実りを結ぶ予感がしてならない。
またこの現在現況は、自らのダンスの核について、職業人として表現者として行うべきことについて、改めて思慮して仕切り直してゆくターニングポイントになっているように思えてならない。
正常化への希望を持ちつつ、この2年に積み重ねた事を、さらに深めてみたい。
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Stage info. 櫻井郁也/十字舎房:公式Webサイト
ただいま前回ダンス公演(2021年夏)の記録をご紹介しております。ぜひご閲覧ください。
※次回公演日程など、年明けより順次情報公開となります。
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