今夜は3人で走りに来ている。
ようやく嶋田君が復活し、見た目的に完全なる走り屋集団となった。
岡ちゃんの180SXは白、嶋田君のR34は黒、そして僕のAE86は2人の色をミックスした白黒だ。
嶋田君のR34は白いホイールになっていた。
純正ホイールじゃない‥。
5本スポークだ。
坂本 「あれ?嶋田君ホイールどうしたの?」
嶋田 「買ったんだ。」
坂本 「へぇー。」
嶋田 「リーガマスターってやつだ。」
坂本 「17インチ?」
嶋田 「16インチだよ。」
坂本 「え‥?」
ん‥、どういうこと?
後ろから見ると四輪ともフェンダー内に収まっている感じが純正みたいに見える。
坂本 「確か、履いてた純正ホイールは16インチだったよね?」
嶋田 「あぁ。」
坂本 「普通、ホイールを新品で買う人は1インチアップするんじゃないかな、と思って。」
嶋田 「俺はしねーよ。」
坂本 「ツライチじゃないじゃん。」
嶋田 「それがどうした?」
坂本 「一般的にはホイールを純正よりも外側にオフセットするんじゃない?」
嶋田 「その一般的には、って何を指してるんだよ。」
坂本 「もしかして、純正と全く同じホイールサイズで、デザインを新しいのに変えただけってこと?」
嶋田 「だけじゃねーよ。ホイールの設計、軽量化、剛性が全然違うんだ。いーねぇー。カッコいいぜぇ‥。」
全く同サイズでも全然性能が違うってことなのか‥。
「純正と同サイズだったら、綺麗な純正ホイールのままでいいじゃん。」って言ったら流石に嶋田君に悪いかな。
まぁ、インチアップすればそれだけタイヤが高くなるし、重くもなるだろうし‥。
そもそも、ツライチがカッコいいなんて僕も思っていない。
嶋田君や岡ちゃんの新型車ならツライチが決まっているだろうけれど、特に僕のハチロクはフェンダーから少し奥まってナロー気味にホイールが見える方がカッコよく感じる。
同じハチロクでツライチになっているのを見るとなんとなくツッパッている感じを受ける‥。
嶋田君は給料1か月分も出して、このホイールセットを買ったのか‥。
僕には無理だ。
そもそもそんなお金持ってないし‥。
岡ちゃんをチラッと見たらニヤニヤしていた。
ここで岡ちゃんに話を振ったら「いんじゃない。」と返すだろう。
嶋田 「少数精鋭の走り屋チームの誕生だな。」
嶋田君が腕を組んでぼそりと言った。
坂本 「おぉよ。180SX‥AE86‥、そしてR34が追加されたぜ。」
岡ちゃん 「はっはっはっはっ…」
岡ちゃんがウケている。
2人にはチーム『Warmth』のステッカーの型紙を渡してあった。
180SXを遠目で見ると左リアクォーターガラスに白地のWarmthが貼ってある。
坂本 「岡ちゃん、ステッカー作って貼ったんだ!」
岡ちゃん 「作ったよ。地味に坂本君は昔から絵を描くのが好きだからやっぱりデザインがいいね!」
坂本 「いやー。」
そうでしょう、そうでしょう。
岡ちゃんは僕のAE86のリアクォーターガラスに赤色で“Warmth”の文字を見て、きっと自分の180SXには白いステッカーの方が似合うと思ったんだ。
その通り、岡ちゃん似合ってるぜ!
嶋田君のR34は今いる角度からは右の側面しか見えないので、左側に貼ったんだろう、と思い僕は左に回り込んでリアクォーターガラスを確認した。
あれ?
黒いR34に黒字のステッカーが貼ってあって見えないのかと思ったが、‥無い。
坂本 「34にステッカー貼ってないね。」
嶋田 「あぁ、俺、手先が不器用だから貼ってないよ。ははは。」
坂本 「貼らないの?」
嶋田 「後で作ったら貼っとくよ。」
嶋田君の様子がおかしい。
嶋田君はこういうヤツなんだ。
まぁ、いいよ。
たぶん、Warmthのステッカーは貼りたくないんだろう。
型紙を一生懸命作った労力を返せ!
‥買ったばかりの真新しいR34のガラスにステッカーを貼りたくない気持ちも分からないでもない‥。
その晩は岡ちゃんがとことん走って、僕たち2台はほどほどに走った。