さてセルゲイ・ロズニツァ、ウクライナの映画作家の作品を観に行く、盛岡には絶対来ないだろうから。
この作品は、ニュルンベルク裁判、東京裁判と並ぶ、第二次世界大戦の軍事裁判、キエフ裁判の記録である。基本的には、ドイツ軍に夜ウクライナ領土での民間人虐殺の罪を裁くものである。
しかし、予想とはまるで違い、なんとも言えない作品だった。もちろん、被告(ドイツ側の将校たち)や原告(生き残ったウクライナ市民)の証言は、想像を絶するむごたらしい虐殺の風景。なのに傍聴席からは嗚咽もすすり泣きも怒りの絶叫も聞こえて来ない。裁判は淡々と進み、また、証言台に立つ人も、まるで原稿を棒読みするかのように抑揚がなく、かつはっきりと証言を続ける。ウクライナ・ホロコースト(その最も激しかったものはバビ・ヤール)のむごたらしい虐殺の証言と、冷徹に裁判が進む風景。この大きすぎる解離を、私はどう理解すれば良いのだろうか。
確かに、傍聴者たちは、証言を聞いて初めて事実を知ったのではなく、実際の現場を見て、もはやトラウマになっており、もはや証言で感情を動かすことさえも怖くてできないのかもしれない。
いずれにせよ、果たしてナチス(裁判ではファシズムと呼んでいたが、そのことも違和感が残った)だけがこのような残虐極まりない民間人虐殺を行ったのだろうか。日本が満州やフィリピンで行って来たこともあるし、日本ではあまり報じられることのない、アフリカや南アジアでの民族紛争(最近ではニジェールのクーデターが記憶に新しいし、アフガニスタンやミャンマーも一体何が起こっているかさえ分からない)もまず我々の想像をはるかに超えた風景が見られるのだろう。
戦争と言うものは、勝ち負けではなく(戦争はスポーツではない)、こうしたむごたらしい風景とセットで語らなければならない。他に言葉では到底説明も表現もできない。
この映画を見た後に、表参道を歩く華やかなファッションに身を包んだ人々にもこの時ばかりは感情が動くことはなかった。それにしても、かなり低い上空を飛行機が飛んでいた。基本的に羽田にはこんな低く飛ぶことはない。台風の影響で低空飛行しているのだろうか。
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