桐野夏生,2013,ハピネス,光文社.(12.13.24)
結婚は打算から始まり、見栄の衣をまとった。憧れのタワーマンションに暮らす若い母親。おしゃれなママたちのグループに入るが、隠していることがいくつもあった。
お互いのことを、「○○ママ」と呼び合う、ママ友カーストが気色悪いことこの上ない。
見栄の張り合いにうつつを抜かす子持ち専業主婦たちのどす黒い心象風景が印象に残る。
人間の醜悪な、微に入り細を穿つ心象風景を描くことについては、おおよそ桐野さんの独擅場である。
桐野夏生,2015,抱く女,新潮社.(12.13.24)
「抱かれる女から抱く女へ」とスローガンが叫ばれ、連合赤軍事件が起き、不穏な風が吹き荒れる七〇年代。二十歳の女子大生・直子は、社会に傷つき反発しながらも、ウーマンリブや学生運動には違和感を覚えていた。必死に自分の居場所を求める彼女は、やがて初めての恋愛に狂おしくのめり込んでいく―。著者渾身の傑作小説。
1972年、まだ学生運動の予熱がくすぶるなか、連合赤軍の山岳ベース、あさま山荘の両事件が起き、左翼過激派への幻滅が広がった、あの時代。
当時、わたしは小学生で、大型クレーン車から吊るされた巨大な鉄球があさま山荘に打ちつけられる様子を、TVの画面に食い入るように見ていた記憶がある。
その後、全国屈指の左翼過激派の拠点であった大学に進学し、中核派、革マル派双方の活動家を揶揄、嘲笑していたら、よほど腹が立ったらしく、大学構内で、何度かクルマに拉致されそうになったことがある。
そのとき、逃げおおせなかったら、本作の主人公、直子の兄の和樹のように、撲殺されていたかもしれない。
1972年の日本に漂っていた微熱まじりの倦怠がよく伝わってくる作品だ。