井上荒野,2013,あなたにだけわかること,講談社.(10.23.24)
忘れたいはずの相手なのに、なぜいつも出会ってしまうのだろう?直木賞作家が描く、男と女の「愛よりも深い関係」。
直木賞受賞作『切羽へ』をはじめ、大人の恋愛と一筋縄ではいかない関係を描いて独自の魅惑的な小説世界を展開する著者が、男と女の「愛ではないけれど、愛よりもかけがえのない関係」を描く長編小説。
桐生駿と野田夏が初めて出会ったのは共に5歳のとき。夏の父に恋をした駿の母が、密会のため息子を連れて夏の家に通ったからだ。親同士の情事の間、それとは知らず階下で待っていた幼い二人は、やがて親たちの関係を知る。以来、別々の人生を歩み始めた二人は、互いに「できれば思い出したくない相手」と感じながらも、なぜか人生の曲がり角ごとに出会ってしまう。まるで、互いの恋愛の証言者のように・・・。それぞれおろかな恋愛を重ねながら、人生における愛のどうしようもなさを受け入れていく男女の関係を描く長編小説。
色恋にまつわるどろどろとした情念を描かせたら、井上さんの右に出る者はいないだろうな。
物語は、二人の主人公、桐生駿と野田夏の語りを交互に織り交ぜることで進行する。
別れと邂逅を繰り返す駿と夏、そしてそれぞれの色恋と醜悪な人間模様とが乾いた筆致で描かれている。
読む者は、登場人物に重ねて、愚かな自らの過去と向き合うことになるのかもしれない。