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本と音楽とねこと

【旧作】「小規模多機能」の意味論──すでにあった、もうひとつの福祉システム【斜め読み】

岩下清子・佐藤義夫・島田千穂,2006,「小規模多機能」の意味論──すでにあった、もうひとつの福祉システム,雲母書房.(11.13.24)

グローバリゼーションの進展に伴う介護の産業化の中で、もうひとつの福祉システムが脚光を浴びている。小規模多機能事業所は、北欧型を目指してきたこれまでの福祉制度とは異なる、日本のオリジナルな福祉システムだ。

 社会福祉、社会事業は、一つには、上からの国策として、もう一つには、グラスルーツの地べたからの民間実践とその制度化によって成立してきた。

 「宅老所よりあい」や「富山型デイサービス」は草の根からのすぐれた実践であり、それらは新たな介護保険や障がい福祉サービスとして制度化されていった。

 本書では、すぐれた民間実践が制度化されて失われる、大切ななにか──杓子定規なコンプライアンスや計算可能性、サービスの標準化、マニュアル化にともなう共感、連帯、コンサマトリーなつながりの形成と維持、これらの重要性が指摘されている。

 理念がまるで詩のような美しい言葉で語られ、小規模多機能事業所のように新しくてよいと思われるものは、何でもスローガンとして取り入れるが、そこに固有の論理を認めている訳ではない。あるいは新しい論理は表面の言葉だけが上手に取りこまれていくことによって、見事なまでに換骨奪胎されていく。恐らく、小規模多機能の制度案に対して、多くの小規模多機能事業所が持った基本的な違和感とはそのことであっただろう。
 あたかもウインドゥズの「ごみ箱」のように、乱発された言葉はふわふわと宙を浮いて飛んでいったまま、空中で消滅してしまう。そしてそのあとには何も残らない。結局のところ、いくら説明を聞いても理解不能であり、こうして介護保険はますます訳のわからないものになっていく。そして最終的には、給付の制限も自治体の無責任も、民主主義や市民社会の成熟を課題として議論は閉じていくのである。
(p.142)

 当たり前にケアし、ケアされる社会に、融通のきかない無機的な制度はそぐわない。
 本書は、このことを再考させてくれる。

目次
第1部 すでにあった「小規模多機能」―もうひとつの福祉システム
事例紹介
調査対象となった事業所に共通する特徴
多様なニーズに対応し続ける事業体に必要なマネジメント
村の障害者保健福祉活動から生まれたNPO「日高わのわ会」
制度化以前から存在した小規模多機能事業所の本質と存在意義
第2部 時代の中の「小規模多機能」―いま、改めて定義する
小規模多機能事業所とは何か
福祉国家の未来
いま、ここにある危機
「持続可能な介護保険」の可能性
コミュナルなものの再建
補論


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