アマゾンやウォルマートに潜入して書かれたルポルタージュと同様の暴露本かと思いきや、筆者自身が、自らの上昇志向、ブランド信仰、拝金主義といった俗物感情にふりまわされつつ、それから逃れようとしきりに内省を重ねる、地味な内容の書物である。
ハーバード・ビジネス・スクール(Harvard Business School=HBS=ハーバード大学経営学大学院)のMBA(Master of Business Administration=経営学修士)といえば、アメリカ金融資本主義、とくにウォールストリートのバンカー、トレーダーの養成所というイメージしかなかったが、徹底した「ケースメソッド方式」で学生を鍛え上げる、それなりにしっかりとしたカリキュラムを実践している、思っていたよりまともな学校のようである。
しかし、「ハーバードのMBA」が、ミルトン・フリードマン在籍時の「シカゴ学派」ほどではなくとも、世界経済における富の集中、「ショック・ドクトリン」、グローバル企業の寡占化といった事態の中心にあり続けたのはまちがいないし、彼ら、彼女らの度しがたいエリート意識も、本書を読めば、さもありなんと思った。
というわけで、アメリカ合衆国の大企業CEOの報酬が、なぜ、あれほど天文学的な額に達しているのか、少しは理解できる。金融危機時に大企業が連邦政府に救済されたあとも、CEOの報酬が変わらず高い背景にも、こうした「拝金主義者の育成機関」の存在があるのだろう。
いや、でも、理解できない。大金持ちになって人生楽しいか?豪華な別荘を所有し、毎日、高級料理をたらふく食べて幸せか?大金持ちを増やして、「慈善事業」に寄付させるより、累進所得税を財源にそこそこ充実した社会保障を実現した方が、自分も他人も安心して暮らせないか?筆者同様、疑問は膨らむばかりであった。
メリル・リンチを破綻寸前に追い込んだスタン・オニール、エンロンを破綻させたジェフ・スキリング、イラク戦争の当事者ブッシュ前大統領、世界を牛耳るハーバードMBAはこうして生まれる!英国人ジャーナリストの留学記。
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