マティルダ・ヴォス・グスタヴソン(羽根由訳),2021,ノーベル文学賞が消えた日──スウェーデンの#MeToo運動、女性たちの闘い,平凡社.(9.27.24)
スウェーデン本国で大ベストセラー!
2018年、ノーベル文学賞発表を中止に追い込んだ渾身のルポ、ついに日本上陸
沈黙を強いられてきた女性たちが、いま声をあげる!
2018年5月、ひとつのニュースが世界中を駆けめぐった。今年のノーベル文学賞は発表中止―。きっかけとなったのは、ひとりの女性記者によるスクープ記事だった。2017年末、スウェーデン最大の日刊紙「ダーゲンス・ニューヘーテル」は、ノーベル文学賞の選考組織であるスウェーデン・アカデミーに近い“文化人”ことジャン=クロード・アルノーが、数々の性暴力を行っていたというスキャンダルを報道。このスクープはアルノーの妻が参加するスウェーデン・アカデミーを巻き込み、やがて…。スウェーデンのフェミニズムの実情、次々と暴かれていく組織内の権力闘争。スウェーデン最大級の#MeToo運動の内幕が、いま明らかになる!
スウェーデンの新聞記者、グスタヴソンは、米国発の#MeToo運動のさなか、スウェーデン・アカデミーの会員にして詩人、作家の妻、カタリーナ・フロステンソンの威光を利用し、公金横領、機密漏洩、そして数多くの女性へ性暴力をはたらいてきたジャン=クロード・アルノーの罪業を暴く。
告発にふみきった被害者の女性たちの証言が生々しい。
読んでいて、辛くなり、吐き気をもよおしたほどである。
経歴を詐称し、妻の威光を利用して、スウェーデンの芸術文化界において権力を欲しいままにしたアルノーは、恐喝をまじえながら女性たちに性行為を強要した。
1990年代よりアルノーのセクシャルハラスメントについての被害が訴えられながら、それを無視してきたスウェーデン・アカデミーの姿勢は、ジャニー喜多川の性加害に見て見ぬふりをしてきた旧ジャニース事務所、芸能界、マスメディアのそれを彷彿とさせる。
性加害は、けっして別世界のできごとではない。
私は#MeToo運動に関する報道にも追いつこうとした。私ももうすぐその一部になるのだ。不快な記事がいくつかあったが、告発された男性たちに向けられた怒りも見られた。
統計的には、私たちの多くが性的暴行の被害に遭っている。だが、自分の知人の中に加害者がいるなんて、ほとんど誰も考えていない。被害者は永遠に壊れてしまうのだから、加害者を化け物に変えて永遠に罰するべきである。そんなふうに考えると、今度は「強姦犯」は身近な人や愛する人とは何の関係もなく、自分が属する社会集団から遠く離れた場所にいると思いがちだ。しかし二〇一八年の秋、#MeToo運動は彼らの数が非常に多く、ごく一般的であることを見せつけた。この運動には、被害者だけでなく加害者のイメージを現実に近づける可能性がある。だが、その前年の二〇一七年一一月後半には、そんなニュアンスは存在しなかった。
(pp.201-202)
グスタヴソンは、加害者のアルノーだけでなく、性暴力を黙認してきた者たちの責任も厳しく問う。
人の人生を破壊する性暴力、それをけっして許していけないという、グスタヴソンの執念がとても印象に残る。