桐野夏生,2017,デンジャラス,中央公論新社.(12.1.24)
三番目の妻・松子とその妹・重子を傍に置きながら、重子の義理の息子の嫁・千萬子を寵愛した谷崎潤一郎。女たちの嫉妬と葛藤が渦巻くなか、それに翻弄される自分自身の姿までも創作の糧とした文豪の尽きせぬ「業」を、作家・桐野夏生がさらに新たな小説へと昇華させる。晩年の谷崎潤一郎と女性たちが一つ屋根の下で繰り広げた四角関係をスキャンダラスに描く。気に入った女たちを周囲に侍らせ、観察するという「男の夢」の完成と崩壊は、好評だった最新刊『猿の見る夢』とつながるテーマ。また、女性の一人語りで展開される濃密な物語はヒット作『グロテスク』にも通じるところがあり、桐野氏の新たな代表作として広く手にとってほしい。
君臨する男。寵愛される女たち。文豪が築き上げた理想の“家族帝国”と、そこで繰り広げられる妖しい四角関係―日本文学史上もっとも貪欲で危険な文豪・谷崎潤一郎。人間の深淵を見つめ続ける桐野夏生が、燃えさかる作家の「業」に焦点をあて、新たな小説へと昇華させる。
名声と財力を利用して、松子、重子、千萬子、女中たちと、周りの女たちに色目を使い続ける、谷崎潤一郎。
谷崎作品中に描かれる倒錯的なセクシュアリティは、そんな女たちへの思慕と欲望が駆り立てた想像力のたまものなのだろう。
谷崎はもちろんのこと、一人称で語られる重子の業の深さが印象的だ。