「ブラックバイト」。学生が、労働法を知らないことをいいことに、サービス残業、むちゃなシフトを強いて、「やめたい」と言うと、「賠償金を支払え」と恐喝する。そこまでいかなくとも、「こういう働かせられ方はおかしいのでは」という学生の正しい思いは、「社会の厳しさを知らない」、「そんなんじゃ世の中生きていけない」と脅され、封印される。
そして、「ブラック奨学金」。国家と金融業者が結託して、学生と親たちから高額の「教育ローン」をむしりとる。利息のみならず、延滞金の課しかたがえぐい。
JASSO(日本学生支援機構)と金融業界のやり口の、このえげつなさよ。
次世代の育成どころか、日本の奨学金制度には「金融搾取」の疑いさえかけられている。
JASSOが1年あたり徴収する利息や延滞金は非常に膨大だ。2015年度には、約387億円の利息収入と約30億円の延滞金収入が計上されている。これらは第二種(有利子)奨学金を返済している人の利息と、第一種(無利子)・第二種問わず延滞してしまった場合に掛かる年5%の延滞金によるものだ。
実は、この利払いが安定した利益をもたらす「投資先」になっているのである。言い換えると、国や民間企業がリターンを求めてJASSOに投資をしている実情がある。JASSOのホームページには、投資家に向けた生々しいページ(IR情報)が存在するが、その中では「返還金の回収強化、業務運営の効率化にも強い覚悟で臨んでおり、国のバックアップもあるため各種格付け会社からAAやAA+といった高評価を受けていることが宣伝されている。いわば、「優良投資先だ」というアピールだろう。
また、「経済的理由により修学が困難な学生等に対する支援」を行っているJASSOに投資することは「社会的責任投資(SRI)」の性格を有するとも謳っている。
それで膨大な儲けを上げているのは民間の銀行や投資家だ。例えば、三井住友銀行は1861億円を年利0.465%でJASSOに貸している。これだけで三井住友銀行にとっては約5億円の利息収入になる。他にも様々な銀行が、当然利息を付けてJASSOにお金を貸している。まさに「奨学金」が金融商品と化しているのだ。
16年度の第二種奨学金は、返還金5179億円に加えて、国からの財政投融資資金7944億円、民間借入金3670億円、そして財投機関債1200億円(JASSOが発行する社債)で構成されている。しかし、第2章で見たように近年は無利子と有利子の割合が逆転し、もっぱら有利子奨学金ばかりが膨張してきた。その結果、本来無利子奨学金を受けられるはずの成績優秀者も利払いの対象に組み入れられてきたのである。その総数が、年間2・4万人に上ることも明らかになっている。
また、JASSOは民間の債権回収会社に委託して、一般金融機関と同等かそれ以上に「過酷な取り立て」を行っている。だが、債権回収が強化される以前から、すでに債権の回収率としては一般金融以上だと評価されてきた。
(『ブラック奨学金』pp.139-141)
今野晴貴,2016,ブラックバイト──学生が危ない,岩波書店.(7.22.2020)
目次
1章 学生が危ない―ブラックバイトの実態
辞められずに「死にたいと思った」―外食チェーン店の事例
バイトで就職活動ができない―コンビニチェーン店の事例 ほか
2章 ブラックバイトの特徴
学生の「戦力化」―生活全体がアルバイトに支配される
安くて、従順な学生 ほか
3章 雇う側の論理、働く側の意識
業界の事情
ブラック企業とブラックバイト ほか
4章 どうすればいいの?―対策マニュアル
異変に気づく家族と教師
ブラックバイトの見分け方 ほか
5章 労働社会の地殻変動
牢獄と化す下層労働
非正規雇用の性質変化 ほか
学生たちを食い潰す「ブラックバイト」が社会問題化している。休みのない過密シフトで心身を壊すほど働き、売上ノルマのため「自爆営業」も強いられる。授業に出ることもできず、留年・退学に至るケースまで…。多くの相談・解決にあたった著者が、恐るべき実態と原因を明らかにし、具体的な対策をも提示する。
今野晴貴,2017,ブラック奨学金,文藝春秋.(7.22.2020)
目次
まえがき 奨学金でローン地獄に突き落とされる若者たち
第1章 奨学金返済の実態
第2章 苛酷な取り立ての実態
第3章 「延滞金地獄」のパターン分析
第4章 世界に逆行する日本の教育費政策
第5章 若者を奴隷化する日本の奨学金政策
第6章 「新しい奨学金」の利用法と注意点
第7章 必読!返せなくなったときの対処法
あとがき 日本の教育は世界から転落する