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「人口ゼロ」の資本論──持続不可能になった資本主義

大西広,2023,「人口ゼロ」の資本論──持続不可能になった資本主義,講談社.(4.19.24)

 本書は、計量経済学の手法を駆使したマルクス経済学の研究成果をもとに、資本主義を必然的に瓦解させる少子化、人口減少問題を分析したものである。

 実際のところ、計量研究は、自明の仮説をあらためて検証するレベルにとどまっており、さほど新しい事実が発見されているわけではない。

 大西さんが注目するのは、晩期マルクスが取り組んだ、資本主義体制下における「生命の再生産」の問題である。

 資本主義の初期から中期──工業社会においては、機械、基盤設備(インフラ)等への資本投下が大きな企業収益につながった。
 工業生産においては、農村山村漁村の「過剰人口」が活用されたので、多少、少子化が進んでも、労働力不足の問題は起こらなかった。

 ところが、耐久消費財のパッケージが大衆普及した、資本主義後期──脱工業社会においては、機械、基盤設備(インフラ)等への投資が減少し、「人への投資」の増額が必要とされるようになった。
 なお、「人への投資」には「生命の再生産」への投資が含まれ、その投資の中身としては、保育、教育、医療、居住福祉への公的支援の充実、適切な賃金政策による国民の生活基盤の強化が挙げられる。

 それにもかかわらず、日本政府は、「人への投資」を怠り、その結果、ワーキングプア、不安定就労者が増大し、結婚できない、子どもをもつことができない人々も増加の一途をたどった。

 これが、超少子化が進行してきた主因であり、わたしも、この現状認識に異存はない。

 安価な労働力として活用できる「過剰人口」は国内にはもはや存在せず、不足する労働力は外国人に依存することになるが、近年の異常な円安の状況下において、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー等からの労働力の調達は次第に困難になりつつある。

 超少子化という「生命の再生産」の危機は、人間を使い捨ての安価な労働力として搾取してきた資本主義の必然的な帰結であり、結論としては、資本主義からの離脱、決別が必要だということになる。

 大西さんは、資本制のあとに来るべき経済体制として、おなじみの「共産主義」、「社会主義」の社会を想定するが、それらは、初期マルクスが想定した「共産主義」、「社会主義」とも、旧ソ連、中国等にかつてあった経済体制ともまったく異なるものだ。

 こうして人口問題の解決にはどうしても「平等社会」が不可欠であることを見ましたが、それが「資本主義」の本質と鋭く対立する以上、私たちが求める社会はもはや「資本主義」ではないということになります。それは私に言わせると「共産主義」の本来の意味に通じます。
 ところで、「共産主義」という言葉は欧米起源で、それは英語ではcommunismと表現されますので、これは社会がコミューンとして形成されなければならないという考え方を表しています。つまり、「共同」と「平等」が理念として含意されているわけで、たとえば一国の生産活動が直接的な意味で共同作業としておこなわれることが不可能である以上、「平等」がその実際的な中身であると言えましょう。本書でこうして「平等社会」が不可欠という時、それは「共産主義が不可欠」と言っているということになります。
 私は前章で、「社会主義」の定義を「社会化された社会 socialized society」として示しましたが、それとの対比で「共産主義」は「平等化された社会 equalized society」と言ってもいいと考えます。両者の概念はもちろんきわめて深い関係にはあるのですが、それらが究極において意味するところは違っている。しかし、少なくとも本書が課題とする人口減の解消にはそのどちらもが不可欠となっていると総括されなければなりません。
(p.153)

 文章表現はお世辞にも巧いとは言えないし、ところどころ論理の飛躍があるところが気になったが、少子化の原因と帰結とを、長期的にしてマクロな視点から捉えなおすことの重要性に、あらためて気付かせてくれる書物であるように感じた。
 ケアワークが尊重される社会への展望を開くためにも、こうした長期的にしてマクロな視点は重要だ。

衝撃の数理モデル「資本主義が続く限り、人口はゼロになる」
なぜ少子化対策は失敗するのか?
人口減の根本にあるメカニズムは何か?
まったく新しい着眼が拓く、日本再生の道!
「人間の数が減ればどういうことになるのか、どういう打撃をこうむるのかについて、私たちは永らく無関心でいましたが、人口減はその深刻さを認識させつつあります。最近は政府でさえ「人間への投資」を主張するようになっています。しかし、日本社会の基本は全然その方向に進んでいません。実質賃金は30年近くも減少した上、2022年以降の物価上昇でさらに大きな切り下げが進行しています。政府が「少子化対策」と称しているものを確認しても、それらで人口減が解決するとはとても思えません。政府は「やってる感」を出すことにしか関心がないのでしょうか。これはこの問題が相当大きな日本の構造転換を必要とし、それに手を出せないことから来ている反応と考えざるを得ません。何より今の少子化は、人々が望んでもたらしているのではない、子供をつくろうとしてもできない状態に労働者がおかれているからこそ起きているのです」――本書「まえがき」より大意

本書のおもな内容
・経済学は少子化問題をどのように論じているか
・「ヒトの軽視」が生んだ将来不安
・社会格差が歴史的にも人口減の最大要因
・非正規労働者は「好きな相手との結婚」を諦めよ!?
・結婚と出産を乗り越えても立ちふさがる高いハードル
・必ず貧困者をつくらなければ持続しないのが資本主義
・ジェンダー差別は「生命の再生産」を阻害する
・AIに人間はつくれない
・賃金格差を広げよ!? 新自由主義が社会に根強い理由
・途上国の発展が日本の不利益に?
・教育の無償化は人口政策
・企業行動への国家の強制介入も必要に
・資本主義からの脱却へ

なぜ少子化対策は失敗するのか?「ヒトの軽視」「ジェンダー差別」「新自由主義」が生む真っ暗な未来。

目次
第1部 人口問題は貧困問題
日本人口は2080年に7400万人に縮む
労働者の貧困化が人口減の根本原因
第2部 マルクス経済学の人口論
経済学は少子化問題をどのように論じているか
マルクス経済学の人口論
人口論の焦点は歴史的にも社会格差
ジェンダー差別は生命の生産性を阻害する
第3部 人口問題は資本主義の超克を要求する
人口問題は「社会化された社会」を要求する
人口問題は「平等社会」を要求する
真の解決は国際関係も変える
資本主義からの脱却へ


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