本書には、関さんが医師として介入した、セルフネグレクト、認知症、重度障がい、難病等により崩壊した家庭の事例が淡々と綴られている。
趣味と実益をかねて撮影された白黒の写真がとても印象に残る。現在にある悲惨を、少しばかりのユーモアと驚き、悲哀、かすかな希望を織り交ぜながら綴っていく力量は、文学者としての医師のそれか、医師としての文学者のそれか、おそらくその両方なのだろうが、いずれにせよたいしたものである。
関さんは、コロナ禍においても、公衆衛生の最前線で活躍されてきた。福祉と医療の境界などものともしないすぐれた実践者による、壮絶な介助の現場での記録である。
白髪に白ひげの老人かとおもえば、コロモジラミがびっしりたかっていた一人暮らしの老人。近隣からの苦情を尻目に、若き日の夢を封印したまま、倒壊寸前のバラック小屋に住み続ける男性。年老いた母親を上手に介護できずに心理的虐待をしてしまう娘。周囲から「なまけもの」と罵られ暮らしていたが、診察してみると「難病」だった男性。家族全員が共依存のため「保育園」のような生活をしている老夫婦と成人した子どもたち―。「介護保険制度」の導入に当たって、日本ではじめて設置された、福祉現場の係長級医師のポストについた著者が、基幹型在宅介護支援センターを拠点に訪問した「社会のうねりから取り残された」家の数々。都会のはざまの、人目にふれない超高齢化社会の風景から、「家」のもつ困難性を考える。他人事とは思えない報告。
目次
第1章 「物あふれ」と家
第2章 「生き物」と「衛生」と家
第3章 「一人暮らし」と家
第4章 「不安」と「介護」と家
第5章 「共依存」と家
第6章 「さすらい」と家
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事