「大学生のテキストとしても、一般読者のロールズ入門書としても好適」とあるが、とんでもない。難解だし、ぶ厚い。読みとおすのにはかなりの根気が必要だが、このての本は、多少わからなくとも臆せず読みすすめることが大切だ。
さて、あまりに有名な不平等についての正義の原理とは、社会的・経済的不平等が以下の二つの条件を充たさなければならないというものである。
「(不平等が)機会の公正な平等という条件のもとで全員に開かれた職務と地位に伴うものであるということ。」、「(不平等が)社会のなかで最も不利な状況にある構成員にとって最大の利益になるということ(格差原理)。」(p.83)
ノージック等、リバタリアンの批判に応えたのだろうか、『正義論』よりもずいぶん控えめな主張となっている。
ホッブス、ロック、ルソー等のいう「自然状態」を(「無知のヴェール」による)「原初状態」という概念でバージョンアップしたのは、ロールズ政治哲学、最大の功績だろう。自由権の保障をもとめる人々が、立憲主義の枠組みのなかで、最悪の事態を少しでも改善する方策(マキシミン・ルール)として、「格差原理」を採択する。なぜなら、それが、「道理にかなう(reasonable)」からである。
これは、ハーバマスの「討議民主主義」と比べ、不平等を是正する動機づけとしては、より有効だ。「無知のヴェール」は「それが自分だったかもしれない」という「立場の相互性」につながり、たんなる同情や憐憫を超えて、平等に配分された自由が要請される。
この程度の理解で終わってしまっているのは情けない限りではあるが、功利主義にもリバタリアニズムにも実現できない、格差是正を内包したリベラリズムのよって立つ思想的基盤をあらためて学んだ気がする。
『正義論』『政治的リベラリズム』等で著名な政治学者が、「公正としての正義」と自ら名付けた正義の構想の理論的到達点を、批判にも応えながら簡潔に示した生前最後の著書。講義録をもとに加筆・編集したもので、大学生のテキストとしても、一般読者のロールズ入門書としても好適。文庫版では、「訳者解説」を新たに付す。
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