斉藤章佳,2023,子どもへの性加害──性的グルーミングとは何か,幻冬舎.(8.10.24)
子どもへの性加害は、心身に深い傷を残す卑劣な行為だ。なかでも問題なのが、顔見知りやSNS上にいる〝普通の大人″が子どもと信頼関係を築き、支配的な立場を利用して性的な接触をする性的グルーミング(性的懐柔)である。「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手口で迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する。
子どもへの性加害の問題は、深刻だ。
被害者のなかには、思春期に自分がされたことの意味を理解し、自分の身体を汚らわしいものと感じるようになったり、ときには、身体を自らの意思でコントロールする感覚を失う(解離・離人症)人もいる。
わたしは、Xで「パキちゃん」という方をフォローしている。
「パキちゃん」にも性虐待の経験がある。
幸せに、より良く生きる意欲を失い、ソープランドとデリヘル、「パパ活」で日銭を稼ぐ毎日。
とてもまっとうな感情と価値規範をお持ちの方なだけに、切れ味鋭い意見のなかにも、自分の身体を売って傷ついているのがかいまみえて、とても痛々しい。
こんなこと書くと、エラそーなこと言うな、と怒られそうだけど。
性虐待被害者のなかには、あまりに辛い記憶を持て余し、それを思い出したくないあまりに、自分の身体を自分の意思で売るという小さな傷つき経験を繰り返していく人もいるのだ。
しかし、それでは、深刻なトラウマに、小さなキズを積み重ねるだけのことになり、けっして、元の深刻なトラウマは消えはしない。
「生き地獄」、である。
性虐待被害者に自殺者が多いのもうなずける。
自分の娘ほどに歳の離れた若い女を「応援」と称してカネで買うじじい、オヤジも、女児をグルーミング、性加害する小児性犯罪者も、相手の無力さにつけ込んで性欲なり支配欲なりを充たそうとしている点で、同根だ。
以前、対談した作家のアルテイシアさんは、「『男にとって都合のいい、かわいい女』を演じないと、仕事も恋愛もうまくいかない。本人はやりたくてやってると思い込んでるかもしれないけれど、それは刷り込みによるもの」と述べていました。この場合の「かわいい」は、「控えめで思慮深い」「やさしい」「思いやりがある」「気遣いができる」などの世間のイメージする「女らしさ」とも通じています。
「女性が未熟であること」を評価する社会に生きる私たちと、「絶対に脅かさない存在」である子どもの無知や弱さを巧みに利用する小児性犯罪者たち・・・・・・一見すると交わらないように見える両者も、実は男尊女卑という価値観においては、地続きの存在なのだと考えています。
(p.97)
性虐待、性暴力加害者には、かつて、自らも虐待、暴力の被害に遭っていた者も多い。
自らの支配欲を充たすために他者に侵襲する性虐待、性暴力は、しばしば再生産され、連鎖する。
しかし、加害者臨床のなかでは、過去に自分が支配され、まるで人間ではなくモノのように扱われた経験のある被害者が、大人になって力を持ったときに自分よりも弱い立場の人に対して同じように振る舞うという「負のサイクル」に出会うことがよくあります。これを私たちは「被害者から加害者への道」と呼んでいます。
性暴力は、必ず権力関係のなかで起きます。上の立場に立つ者、力の強い者が、下の立場にいる者、力の弱い者に対して暴力を行使するものです。そしてその「支配―被支配」の関係で行われた性暴力は、残念ながら再生産されてしまうことがあるのです。
(pp.118-119)
だからといって、加害者が免責されるわけではない。
加害者の更正、臨床プログラムにおいては、コーピングスキルの習得が重要となる。
子どもに性加害をするためにこの世に生まれてきた人はいません。グッドライフモデルでは、彼らは性暴力という不適切な手段で、人間が普遍的に追い求める「グッド」を手に入れようとしてきたと考えられていることを述べてきました。
性暴力という不適切な手段を脱するためには、その代わりとなる「適切な手段」を身につけることが重要です。そこで再犯防止プログラムでは、コーピングの仕方を身につけます。コーピングとは「対処行動」という意味で、ストレスを感じたときに自暴自棄になって最悪の状態に自分自身を追い込まないため、自分よりも弱い存在を踏みにじらないためにも、具体的な方法をたくさん身につけておくのです。
コーピングは、性犯罪の再発防止の文脈だけで語られることではありません。日常の生活でも、私たちは仕事でストレスがたまると、サウナで汗を流す、マッサージに行く、カラオケをする、おいしいものを食べる・・・・・・などなんらかのコーピングスキルを駆使しています。そうすることで、「さっきはイライラしてうんざりしたけれど、まぁなんとか明日も仕事に行くか」と折り合いをつけて、日々の暮らしを営んでいる人も多いはずです。これらは健全なコーピングです。
しかし、ストレスを感じた際にアルコールを多量に飲む、節度を超えたギャンブルをする、違法薬物に手を染める・・・・・・といった不適切なコーピング手段が習慣化すると、人はやがて依存症といわれる状態に陥ってしまいます。不適切なコーピングをした際、脳内から快楽や多幸感をもたらす伝達物質ドーパミンが分泌され、一時的にはストレスを忘れたように感じられるのですが(苦痛の緩和=負の強化)、やがて同じ量の刺激では物足りなくなり(耐性)、さらに強い刺激を求めるようになります。
これを繰り返していくと、人はやがて依存症になってしまうのです。子どもへの性暴力などの性加害行為を繰り返すのも、行為依存と類似した側面があることは先に述べたとおりです。
子どもの姿を目にすることが再犯のトリガーになる小児性犯罪者の場合、目をそらして(閉じて)保冷剤をギュッと握るのも、立派なコーピングのひとつです。衝動的な欲求から気をそらすには、五感への刺激がとても有効です。
(pp.222-223)
性虐待、性暴力加害の実態と加害者の語りには、憤りとともに暗然たる気持ちになる。
それでも、加害者を一生隔離しておくことはできないわけであるから、加害者臨床はとても重要だ。
目次
第1章 性的グルーミングの手口
第2章 子どもを狙う加害者の頭の中
第3章 性的グルーミング被害の実態
第4章 被害者支援の現場から
第5章 小児性愛障害の治療
第6章 子ども性加害経験者と語る―加藤孝さんに聞く、「やめ続ける責任」とは