いずれも手堅い実証研究の論考が収められている。
福祉社会学の対象全般を網羅する内容であるだけに、大学院生が研究の範例として参照するには、良い本である。
いちばん考えさせられたのが、森川美絵さんの「義務としての自立の指導」と「権利としての自立の支援」の狭間で──生活保護におけるストリート官僚の裁量と構造的制約(第8章)で、生活保護の現業員を対象とした調査の結果において、「勤労の義務を果たしていない生活保護受給者の権利を制限すべき」とする意見が多数あったのが、予想できたこととはいえ、衝撃であった。
怠惰としか思えない保護受給者の権利を制限すべしとする市民感情は理解できるが、生活保護の現業員は生活困窮者の生死を左右する立場にある公務員である。職権として、自立に向けた義務を果たしていない者の受給の権利を剥奪すれば、その者の生命を奪うことにつながりかねないことを承知のうえで、そうした正義感を抱いているのであるとすれば、そら恐ろしい。
支える側と支えられる側の相互行為として―高齢者、病者・障害者、生活保護受給者を対象に、それを支える家族、職業的サービス提供者、ボランティアに共通する問題群を、実地調査と聞き取りにもとづいて社会学的見地から明らかにする。
目次
第1章 介護経験とライフストーリー―生活史の継続という観点から
第2章 実の娘による「遠距離介護」経験と「罪悪感」―男きょうだいの有無による老親介護責任配分の位相
第3章 本人の「思い」の発見がもたらすもの―認知症の人の「思い」を聞き取る実践の考察を中心に
第4章 院内家族会とその支援的機能―小児ガン患者の「親の会」の事例から
第5章 職業者として寄り添う―病院内看護職と末期患者やその家族とのかかわり
第6章 ホームヘルプの事業所間比較―ヘルパーによる利用者への対処に着目して
第7章 支援/介助はどのように問題化されてきたか―「福島県青い芝の会」の運動を中心として
第8章 「義務としての自立の指導」と「権利としての自立の支援」の狭間で―生活保護におけるストリート官僚の裁量と構造的制約
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