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本と音楽とねこと

LOVE2.0 あたらしい愛の科学

バーバラ・L・フレドリクソン(松田和也訳),2014,LOVE2.0 あたらしい愛の科学,青土社.(4.7.24)

 本書は、ポジティブ心理学が、使いようによっては、人間の幸福や健康の増進にたしかに役に立つことを示している。

 ロマンティック・ラブの欠陥は、ややもすると、排他的な二者関係のなかで自己閉塞していく点にあり、フレドリクソンのいうLOVE2.0とは、この欠陥を克服するものとみてもよかろう。

 フレドリクソンは、愛が「ポジティヴィティ共鳴」によって生成するものであると言う。

 ここで言う愛は、排他性とも大きく隔たったものです。つまり配偶者や恋人専用の特別の感情ではありません。子供や親や親友に対する暖かい感情よりも意味の広いものです。愛は普通に考えるよりずっと幅広いものです。実際、誰も──老いも若きも、情熱的な人も内気な人も、独身も既婚者も──除外するべきではありません。結局のところ、飛行機でたまたま隣り合わせた人との間に言葉にならない連帯感という繋がりを燃え立たせるのは愛なのです。その人に対して心を開き、注意して話を聞く。目を合わせてお互い見つめ合う時に、真の尊敬と賞賛があります。ここで私は、一九六〇年代後半にルイ・アームストロングのガラガラ声で有名になった『この素晴らしき世界』という歌の歌詞を思い出します。「人々は通り過ぎながら、はじめましてと言ったり、友達が握手したりしているのを見かけます。彼らは心から「愛している」と言います」。
 たぶん直観には反して、愛は繋がりであるという単純な事実から考えられる以上に、愛は遙かに普遍的なものです。新生児の目を初めて覗き込んだ時、親友とさよならのハグをする時に感じる、心臓が激しく広がる感じそのものです。一緒にウミガメの孵化を見る時、あるいはフットボールの応援をする時に、見知らぬ人々と盛り上がる、共感や慈しみの感覚です。お伝えしたい愛の新しい解釈とは、これです。愛とは、二人以上の人が見知らぬ人同士でも共有するポジティヴな感情で、それが弱くとも強くとも、繋がった時にいつでも花咲くものです。
 簡単に言えば、愛とは三つの緊密に繋がり合った出来事が瞬間的に生じることです。第一に、あなたと他者との間でのひとつもしくはそれ以上のポジティヴな感情の共有。第二に、あなたと他者の生化学と行動の同時性。第三に、相互の配慮をもたらすお互いの幸福に投資しようとしてお互いの中に引き起こされる動機。
 この三つを、簡単に「ポジティヴィティ共鳴」と呼びます。増幅された調和を特徴とする共有されたポジティヴな感情、生物行動学的同時性、相互的な配慮─これらの個人間の繋がりの時に、生気を与えるポジティヴィティは人々の間で共鳴します。このポジティヴなエネルギーの反響は、束の間の繋がりが弱まるまで、自力で持続し、そしてより強くなることもあります。繋がりがいずれ弱まるのは仕方のないことで、それが感情というものです。
 ポジティヴィティ共鳴を鏡に例える視覚的メタファーを思いつきました。ポジティヴィティ共鳴の瞬間は、当然ながら、三つの異なるレベルでかなりの鏡映があります。あなたと他の人はお互いの感情の状態の中にポジティヴィティを映します。あなたたちはお互いのジェスチャーと生化学を映します。そしてあなたたちはお互いを気遣うためにお互いのインパルスを映します。ですからポジティヴィティ共鳴の時には、ある程度まで、あなたたちは他者の反映と延長になります。確かに、普通の鏡に向き合った時には、自分自身と目を合わせるだけです。けれども、この鏡をまっすぐ見続けてそこに映る他者を見ると想像してください。このポジティヴィティ共鳴の瞬間の前に、あなたたち二人は離れて自分のことをしています自分の感情を感じ、自分の動きをし、自分の嗜好に従っています。けれども、この特別の繋がりの瞬間、両者のそれぞれの感情、行動、インパルスは整列し、同期するようになります。ほんの一瞬、あなたがたはそれぞれ、自分自身より大きな何かになります。これは普通の瞬間ではありません。この鏡像の反射とあなた自身の状態の拡張の中で、あなたは遙かに多くのものを見ます。強力に往来するエネルギーの結合が、あなたがた二人の間に、電荷のように生まれます。
(pp.28-29)

 感情のシェアと身体の共鳴があってはじめて、安全、安楽、安寧、自己肯定、ストレングスの感覚が他者を巻き込むかたちで広がっていく。

 自己と他者の、身体の共鳴は、エンパシー、すなわち自他の境界を溶かし、他者の内面にダイブする経験につながる。

 隔離されたミラーニューロンの話は忘れましょう。いわゆるミラーニューロンは顕微鏡で見るような脳の領域で、イタリアの神経生理学者たちが、猿がバナナに手を伸ばした時、そして同じ猿が人間がバナナに手を伸ばすのを見た時に発見したものです。このミラーニューロンの発見は大きなブレイクスルーでした。と言うのも、何らかの行動を採ることと、他者が同じ行動を採るのを見ることはそれまで考えられていたよりも遙かに近いということが判ったからです。これはつまり、何かを知る時──何故オフィスに入ってきたばかりのあの人は微笑んでいるのか――、あなたの脳と身体はその人の靴を履いて、その人の皮膚の中に入ってシミュレートするからなのです。知ると言うことは抽象的で概念的ではなく、現実的で肉体的なものなのです。隔離されたミラーニューロンの概念は、まだ未知の、巨大な氷山と繋がり始めたばかりです。ハッソンとそのチームが発見したことは、これまでに考えられていたよりも遙かに広大なニューロンのカップリングでした。ひとつかふたつの脳の領域に隔離されているどころか、本当に誰か他人と「クリック」することは、完全に鏡張りの部屋の中の脳全体のダンスのようです。あなたがた二人の間の反射は、透徹して、広範なものです。
(pp.59-60)

あなたの脳と身体はその人の靴を履いて、その人の皮膚の中に入ってシミュレートする

 これこそが、ダイブ、という経験にほかならない。

 「ポジティヴィティ共鳴」に満たされた人生は、人を健康にする。

 愛によるオキシトシンの分泌、迷走神経の活性化は、免疫力を向上させ、慢性的炎症、悪性腫瘍の発生を抑止する。

 健康に成る。愛は魔法の弾丸(特効薬)ではありません。ただ一つの、単独のポジティヴィティ共鳴の瞬間によって、一年間プロッコリーを食べ続けるよりも健康になるということはありません。けれども、幅広い範囲の新鮮な果実や野菜を確実に摂取することがあなたを健康にするように、幅広い範囲の愛の瞬間の摂取もまた同様なのです。
 愛が肉体のシステムを長期的な形で向上させるという直接的な因果的証拠が、私のPEP研究所の長期に亘るフィールド実験から明らかになりました。これは最初に第3章で触れたものです。被験者は、自分で愛を頻繁に生み出す方法を学ぶかどうかをランダムに分けられます。被験者の愛と社会的繋がりに関する毎日のレポートは二つの集団に分かれていきます。そしてこれらの違いは、人々の迷走神経緊張の安静時のレベルの重大な向上を説明します。「愛」の状況にランダムに当て嵌められた人は、長期的に心臓の機能に長期的な利点を得たのでした。
 迷走神経緊張は、副交感神経系の健康を示す重要な指標です。拍動する心臓の働きを抑制し、そのために恐怖の後でも心を静めることができますし、必要に応じて行動の中断もできるからです。合衆国では、心臓病が主要な死因となっています。医師は迷走神経緊張の知識を使って、心臓病の罹りやすさをある程度正確に予知します。そしてそのような破局的な健康上のイベントを生き延びる可能性も。迷走神経緊張は、免疫系の強さ、特定の慢性的炎症との繋がりも反映しています。これは心臓病だけではなく、卒中、関節炎、糖尿病、そして癌までも知ることのできるリスクファクターとなります。ですから私たちの経験によれば、より頻繁に愛することを学べば、だれもが恐れる最悪の健康上の状態の多くのリスクを減らせるのです。
 最近、私の研究所は、如何にして愛が細胞レベルで変化をもたらすかを研究することによって、愛のある繋がりのさまざまな健康上の利点を説明する生物学上の道についての研究を押し進めています。私たちは今、ボランティアの皆さんから定期的に採血し、UCLAのゲノミクスの専門家であるスティーヴ・コールと共同で、ランダムな「愛」の状況が、DNAの細胞内発現を如何に変えるかを探っています。これまでの研究で、慢性的な孤独──常態的なポジティヴィティ共鳴の渇望──がその人の遺伝子の発現を傷付けるということ、これは特に炎症を支配する免疫系の白血球細胞に当て嵌まるということが解っていました。私たちは、愛の繋がりの頻度を上げることを学ぶと、遺伝子発現が変わり、病気に対する抵抗力が付き、それによって人々を良い健康状態にするという仮説をテストしていました。
 毎日の愛の瞬間がどのようにして肉体の中で示され、共鳴するかという洞察は、ポジティヴな社会的繋がりと健康、長寿を繋げる体験の証拠となるうねりに意味を与えてくれました。山のような研究によって、さまざまな、そして価値のある人間関係を他人との間に築いている人は、より健康で長寿であるという結果が出ています。より最近の長期的な研究によれば、特にポジティヴな感情と健康な長寿を結びつけています。これらの研究の示す所は、ポジティヴィティ共鳴の欠落は肥満や喫煙同様に健康に悪いかもしれないということです。特に、これらの研究が告げているのは、より暖かい、気遣いある関係を他人と持てる人は風邪を引くことが少なく、血圧が低く、心臓病や卒中、糖尿病、アルツハイマー病、そしてある種の癌にやられることが少ないということです。あなたの妨げとなり、寿命を縮める主要な状況の多くはこのように、他人との良質で頻繁な繋がりをアップグレードすることに懸かっているのです。
(pp.108-110)

 排他的でない、普遍的なLOVE2.0は、ケアの内発性の根幹を成すものと考える。

 本書は、わたしにとって、そのきわめて重要な気付きをもたらしてくれた。

Love 2.0  Finding Happiness and Health in Moments of Connection

いまこそ、愛の定義をアップデートするとき。人間の究極の感情、それは愛。心理学者が、その究極の感情に科学のメスを入れたとき、私たちの生き方や考え方を大きく変える愛の真実の姿が明らかになった。人はなぜ愛するのか。

愛はただの感情ではない。身体の生化学的な構成まで劇的に変化させることを最新の科学がはじめて解き明かした。この究極の感情が、どのように私たちに働きかけ、そして私たちをいかにしてつないでいるのか。人生や世界をポジティヴにする、愛を正確に理解するための理論と実践のすべて。

目次
第1部 ヴィジョン
人間の究極の感情―愛
愛とは何か
愛の生物学
愛のさざなみ
第2部 ガイダンス
慈愛
自己愛
他者への愛、病と健康
無限の愛
最後の愛の一瞥


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