訳者がことわっているとおり、capabilityは「ケイパビリティ」であって、「潜在能力」とすると、ちょっとちがう。
ケイパビリティを高めるじゅうぶんな社会環境と、それを発揮する機会とが、平等な社会には必要だということだ。
「ケイパビリティ」を功利主義的にとらえなおすと、「効用を最大限に実現する能力」ということになるのだろうが、その「効用」を「所得」とそれによる欲望充足に限定するのは、正しくない。ケイパビリティがよく機能するというのは、アメリカの心理学者、エイブラハム・マスローを援用すれば、「個人がもてる資質、能力を最大限に発揮して自己実現をはかること」ということになるだろうが、そうした個人的な充足だけでなく、協働による集合的善の実現をも意味するものであるように思った。
ロールズといい、センといい、このての議論は、いまいち苦手である。
人間の不平等の問題は、所得格差の面からだけでは解決できない。一九九八年にノーベル経済学賞を受賞した著者は、本書で、これらの問題を「人間は多様な存在である」という視点から再考察することを提案した。「潜在能力アプローチ」と呼ばれるその手法は、経済学にとどまらず、倫理学、法律学、哲学など関連の学問諸分野にも多大な影響を与えている。現代文庫版では、参考文献を改訂し、現代の日本における不平等に関する議論を本書の視点から考察した訳者による解説を新たに付した。
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