著者の小野さんは、全国の就労継続支援事業所、企業と提携し、業務を請け負う障がい者と業務委託する企業のマッチングを最適化するプラットフォームを構築すると豪語する。
夢を語る人をくさすつもりはないが、障がい者個々の能力、適性に見合った業務を企業から受注するしくみを、コンピュータのアルゴリズムに落とし込むことができるのか、はなはだ疑問に感じた。いんちきコンサル企業が好きそうな経営ポルノチックな業界用語にうんざりしつつ、社会福祉が確実に儲けるための狩り場にされているのではという疑念を払拭できなかった。
重度訪問介護制度を活用した事業を展開する「土屋グループ」の高浜敏之は、自著を社員に礼賛させる程度でかわいいものだが、フランチャイズ方式で「茶話本舗」(夜間対応型小規模デイサービス)を全国に展開した藤田英明は、劣悪、杜撰なサービスと労基法違反の社員処遇が露見してばっくれたかと思いきや、現在は、犬や猫と一緒に暮らせるとかの精神障がい者グループホームを全国に展開し、「茶話本舗」と同様の問題を引き起こしている。
藤田は論外であるが、高浜やこの小野さんが、今後どのように事業展開していくか、期待半分、警戒半分で注視していきたい。社会福祉の増進は望むところだが、社会福祉をくいものにするビジネスは許されるべきではないし、経営ポルノでどうにかなるほど社会福祉は甘くない。
日本には障害や難病のため就労に何らかの課題を抱え、無職、低賃金、不安定な就労環境等の状態になっている、いわゆる「就労困難者」が約一五〇〇万人存在する。その多くがきちんとした給料や、自己肯定感を高めるやりがいを得ることができていない。長年解決されない問題だ。一方、少子高齢化に伴う労働人口の減少はテクノロジーの進歩や普及でもカバーしきれない。つまり、就労困難者に活躍する機会を提供することで社会課題が解決されるだけでなく、日本経済を支えることにもなるのだ。このような発想で就労支援プラットフォームを運営するスタートアップがある。障害者と健常者、就労困難者とそうでない人の壁が解け合う、働き方の未来とは。NPOでもなければベンチャーでもない、スタートアップだから起こせる変革とは。「インクルーシブ社会」へ向けたグランドデザインとは。
目次
第1章 障害者雇用制度を基盤とした日本版インクルーシブモデル
第2章 世界トップクラスのポテンシャルを秘めた就労支援業界
第3章 日本の労働人口減少問題を突破する方法
第4章 就労困難者が「大活躍」するためのプラットフォーム
第5章 薬だけではなく仕事を―起業のきっかけ
第6章 データテクノロジーがつくる就労困難者と日本経済の未来
第7章 スタートアップが挑戦する社会性×経済性
第8章 インクルーシブ雇用2.0
第9章 就労困難者ゼロ社会
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事