幽霊の家

　昨日の夜、その本を読み始めた。初めてよしもとばななの短編集を読む僕であるが、色々と想像していたので、実際に読んでみたら、僕が想像していた内容とはちょっと違うということがわかってなんとなく不思議に思った。面白いというか、タッチが鋭い上に、暖かい感じとちょっとだけの侘しさを覚えた。

　第一篇は「幽霊の家」という。三ヶ月ほど前、知り合いの女性からこの短編小説を薦められた。「おすすめよ。ぜひ読んでみて。」と言われて、僕は早速その本をアマゾンで検索してみたが、残念ながら、在庫切れだった。そこで三ヶ月も待ってついに注文ができ、今度こそ真面目に中国語の本を読もうと僕は決めた。

　５０ページぐらいの短編小説、５０分ぐらいかけて読み終えた。日本の短編小説って、何年ぶりかな～と僕は感嘆しながらよく回想したあと、なんだ、ただ一年ぶりだけじゃないかと気づいた。

　そう、ただ一年だけ。どうして何年ぶりかと感じたのか、僕にもわからなかった。この一年間、時間の流れが何故か微妙になったような気がする。短くて長い一年間、とでも言えよう。他に適切な言葉はないはず。

　まあ、それはともかく、「幽霊の家」を読み終えたあと、高校時代のことがまた頭に浮かんできた。あの頃、僕もアパートのような家に住んでいた。学校の近くにある家屋で、家賃が安くてエアコンとかも付いているので、そこで二年ほど日々を送っていた。「幽霊の家」の主人公とは似た境遇だから、あれこれ思わさせられてしまった。あの頃のことを今顧みると、ああ、僕にもリア充的な時期があったなと思ってしまう。彼女もいて、普通に恋に落ちていて、それなのにどうしても物足りなくてたまらなかった。侘しくても、いられなかった。

　今、その家屋はもう取り壊されている。通りかかったことがあったので、ついでに見てきた。崩れた垣や壁だらけだった。

　「帰って行ける家があるのに。しかも愛されているのに。それでも侘しく感じられるのは、青春というものだろうね。」と、本を推薦してくれた女性が言った。確かにその通りだ。なんなら、その時が来たら、食べたいものを食べに行けばいいんだと思ってる人が、僕だけではないのだろうな。